第五話 すれ違う銃弾
「ああ、よかった!
ガスマスクを取ろうとする京香を止める。
「駄目だ! マスクを取ったら感染する! この先は、いや、俺も恐らく感染している!」
ガスマスクの土埃がこびりついたゴ―グルでこちらを見つめる。
「なにを言っているの?」
「え?」
「流行病は収束したのよ! あなたのおかげで!」
「どういうことだ?」
突如、答えをかき消す銃声が、俺と京香を切り裂く。
京香の後ろから男性の怒声が廊下を駆る。
「玉井隊員!
ひび割れた窓から入り込む赤い陽光が、硝煙の向こうで、銃器を構える男性を照らす。
男性もガスマスクをしていて、表情は分からないが、声からして、敵意を持っているのは確かだ。
京香は両手を広げて俺を男性の射線から外す。
「隊長! 誤解です! 彼は!
「玉井隊員! 私情を捨てろ! 聡明な貴様は理解しているはずだ! カプセルが治療処理を終えたのではない! カプセルが壊れてそいつは、菌を持ったままこの世に放たれたんだ!」
京香はこちらを振り向く。ガスマスクの中に夕陽の日が当たり、あの日の川の時のように、赤い魚がゴーグルの中を跳ねまわる。
「違います! 違います!
京香は泣き叫びながら首を何度も横に振る。必死に否定をする。
「玉井隊員、わかった! 貴様を命令違反で拘束する! 武器を捨てたまえ!」
京香は静かに掛けていたマシンガンを地面に置く。
後ろの俺もそれに倣い、銃を置く動作をする。
一瞬だった。
気付くと、俺の手にあった銃は京香の手にあった。
廊下で重なり合う銃声。夕陽よりも赤い液体が球状となって、煌めき、揺らめいた。
二つの火薬が咲かす光る花に、最後の記憶が揺り起こされた。
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