第7話

五人パーティーが結成されて二週間。零たちは毎週末、Aランクダンジョンに挑み続けていた。


リサの加入により、パーティーの機動力は飛躍的に向上した。双剣の速度を活かした攻撃で、敵を撹乱し、零たちの攻撃機会を作り出す。


「リサ、いいわよ!」

「まっかせて!」


リサの双剣が敵を切り刻む。その速度は、まさに疾風。楓との連携も抜群で、二人の剣士が前線を支配する。


しかし零は、リサの武器に少し不満を感じていた。


「リサ、戦闘後に武器を見せてくれ」

「え? 何か問題ある?」

「いや、まだ改良の余地がある」


零の言葉に、リサは目を輝かせる。


「もっと強くできるの!?」

「ああ。ただ、特殊な素材が必要だ」


週末、零は一人でAランクダンジョン「風の峡谷」に向かっていた。


女子たちは学校行事で来られず、零は単独行動を選んだ。リサの双剣強化に必要な素材「疾風の羽」を手に入れるために。


峡谷の奥深くまで進むと、巨大な鳥型モンスター、ストームイーグルが待ち構えていた。


「Aランクの飛行系...厄介だな」


ストームイーグルは空中を高速で飛び回り、風の刃を放ってくる。地上からの攻撃は当たりにくい。


しかし零には、複製カリバーンがある。


「行くぞ」


零が地面を蹴り、驚異的な跳躍力で空中へ。ストームイーグルの背後に回り込み、一閃。


鳥の翼が切断され、地面に落下する。そして零は、さらに追撃する。


「終わりだ」


剣がストームイーグルの心臓を貫く。巨大な鳥は悲鳴を上げ、消滅した。


戦闘後、零は「疾風の羽」を回収する。これがあれば、リサの双剣をさらに強化できる。


しかしその時──背後から強い気配を感じた。


「やるじゃない、高校生」


振り向くと、大人の女性が立っていた。


長い黒髪、鋭い目つき。そして、腰には大剣。プロの冒険者特有の、研ぎ澄まされた雰囲気。


「誰だ」

「氷室美咲。この学校の教師よ」

「教師?」


零は美咲を見る。確かに、学校で見かけたことがある気がする。


「あなたが神代零ね。噂は聞いてるわ」

「何の用だ」

「ちょっと実力を見たくて、尾行させてもらったの」


美咲の言葉に、零は警戒する。しかし美咲に敵意は感じない。


「で、どうだった」

「想像以上ね。あのストームイーグルを単独で倒すなんて」


美咲は零の剣を見る。


「その剣...噂の複製カリバーン?」

「そうだ」

「美しいわね。まるで芸術品」


美咲の言葉に、零は少し意外そうな顔をする。


「武器の美しさがわかるのか」

「当然よ。私、元Sランク冒険者だもの」

「Sランク...!?」


零は驚く。目の前の女性が、Sランク?


「五年前まで、現役だったわ。でも、ある事件で引退した」

「事件?」

「まあ、それは今度話すわ」


美咲は零に近づく。


「ねえ、お願いがあるんだけど」

「何だ」

「私も、あなたのパーティーに入れてくれない?」


零は目を見開く。元Sランク冒険者が、自分のパーティーに?


「なぜ」

「あなたのパーティー、面白そうだから」

「それだけ?」

「それに...」


美咲は少し寂しそうな表情を浮かべる。


「私、もう一度戦いたいの。本気で」


零は美咲を見つめる。その目には、本物の戦士の輝きがあった。


「わかった。ただし、条件がある」

「何?」

「お前の武器を見せろ。古い装備なら、新しく作る」


美咲は腰の大剣を抜く。確かに古い。刃はところどころ欠けていて、柄も擦り切れている。


「これ、五年間使ってなかったから...」

「ひどい状態だな」

「だから、お願い。新しい剣を作って」


美咲の真剣な眼差しに、零は頷いた。


「わかった。ただ、大剣に最適な素材が必要だ」

「どんな素材?」

「竜心石。Aランクダンジョンの最深部にある」


美咲の目が輝く。


「じゃあ、一緒に取りに行きましょう」

「お前の実力、本当に大丈夫なのか?」

「舐めないで。元Sランクよ?」


美咲の自信に満ちた笑顔を見て、零は小さく笑った。


週末、零たちは最高難度のAランクダンジョン「炎獄の迷宮」に挑んでいた。


今回は六人パーティー。香織、楓、柚葉、リサ、そして新メンバーの美咲。


「美咲先生も来るなんて」

「先生、本当に元Sランクなんですか?」

「そうよ。期待してていいわよ」


美咲の余裕に、女子たちは半信半疑だった。しかし──。


最初の戦闘で、美咲の実力が証明された。


巨大な炎の魔獣、ファイアウルフが五匹同時に襲いかかる。


「危ない!」


香織たちが警戒する中、美咲が前に出る。


「任せて」


美咲の大剣が一閃。五匹のファイアウルフが、一撃で切断された。


「嘘...」


全員が呆然とする。古い大剣なのに、あの威力。


「やっぱり、先生すごい...」


楓が感嘆の声を上げる。美咲は余裕の笑みを浮かべた。


「まだまだよ。これからが本番」


パーティーは奥へと進む。次々と現れる炎系のモンスターを、零と美咲が中心になって倒していく。


「零、右!」

「わかってる」


二人の連携が、自然に生まれる。美咲の経験と、零の圧倒的な力が組み合わさり、無敵の前衛が完成する。


「すごい...二人とも、化け物じゃない...」


リサが呟く。香織も頷く。


「ええ...私たち、まだまだね」


中ボス部屋に到着する。そこには、全長十メートルを超える炎の竜、ファイアドレイクが待ち構えていた。


「Aランクのドラゴン種...」


美咲が緊張する。ドラゴン種は、同ランクの中でも最強クラスの敵だ。


「作戦を立てる」


零が全員に指示を出す。


「香織は氷魔法でドレイクの炎を封じろ。楓とリサは足を狙え。柚葉は回復に専念。美咲は俺と一緒にメインアタック」

「了解」


全員が頷く。ファイアドレイクが咆哮を上げ、炎を吐き出す。


「アイスウォール!」


香織の氷壁が炎を防ぐ。その隙に、楓とリサが突進する。


二人の剣がドレイクの足を切り裂く。ドレイクが苦痛に悲鳴を上げる。


「今よ!」


美咲と零が同時にジャンプし、ドレイクの首に斬りかかる。


二人の剣が首に食い込む。しかし、ドレイクの鱗は硬く、致命傷には至らない。


「もう一度!」


零と美咲が再度攻撃する。連続攻撃に、ドレイクの鱗が砕け始める。


「ホーリーランス!」


柚葉の聖槍から光の矢が放たれ、ドレイクの弱点を貫く。


ドレイクが大きく揺れ、地面に倒れる。そして──消滅した。


「やった...!」


全員が歓声を上げる。初のドラゴン種討伐だ。


戦闘後、零はドレイクから「竜心石」を回収する。赤く輝く宝石、大剣の素材として最高級だ。


「これで...美咲の剣が作れる」


美咲は嬉しそうに竜心石を見つめる。


「ありがとう、零」

「まだ何もしてない」

「いいえ。あなたは、私にもう一度戦う機会をくれた」


美咲の目に、涙が光る。


「私、五年間...ずっと後悔してたの。引退したこと」

「何があったんだ」

「それは...また今度話すわ」


美咲は零の肩に手を置く。


「でも、あなたと出会えて良かった」


その言葉に、香織たちが複雑な表情で見つめる。また零に好意を持つ女性が増えた。


三日後、武器部室。


零は三日三晩かけて、美咲の大剣を完成させた。


竜心石を埋め込んだ、炎属性の大剣。刀身は深紅に輝き、柄には竜の紋様が刻まれている。


「完成した...」


零が呟いた瞬間、扉が開く。美咲が期待に満ちた表情で入ってくる。


「できた?」

「ああ」


零が差し出した大剣を見て、美咲は言葉を失った。


「これ...本当に私の?」

「お前の戦闘スタイルに合わせて作った」


美咲は震える手で大剣を握る。その瞬間、剣が赤い光を放ち、美咲の身体に炎の力が流れ込む。


「これは...すごい...」


今まで使っていた剣とは、次元が違う。まるで、全盛期の自分に戻ったような感覚。


「外で試してみろ」


訓練場で、美咲は標的に向かって大剣を振り下ろす。


「炎斬り!」


炎を纏った一撃が標的を粉砕する。その威力は、全盛期を超えていた。


「信じられない...これが、私の力...」


美咲は涙を流す。零が隣に来て、言った。


「お前の実力は、まだ健在だ。武器がなかっただけ」

「零...」


美咲は零を見つめる。この少年が、自分を蘇らせてくれた。


「ありがとう...本当に、ありがとう...」


美咲は零を抱きしめる。零は驚いて固まった。


「先生...!」

「美咲先生、何してるんですか!?」


香織たちが慌てて駆け寄る。美咲は余裕の笑みを浮かべた。


「あら、これくらいいいじゃない」

「よくありません!」

「零様は私たちのリーダーです!」

「零君は私のものです」


修羅場が勃発する中、美咲は小さく笑う。


「面白いわね。みんな、零が好きなのね」


美咲の言葉に、全員が顔を赤くする。


「す、好きとか...!」

「そんなんじゃ...!」

「私は零君のものだって言っただけです」


混乱する中、零は静かに部屋を出ていった。


「逃げた...」


全員が呆然とする中、美咲だけが笑っていた。


翌週の測定で、美咲の戦闘力はSランク上位に到達した。


元Sランク冒険者の完全復活。そして、六人の最強パーティーが完成した瞬間だった。

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