ご出席

阿々 亜

前編

 6月某日。

 梅雨の真っただ中にも関わらず、その日だけカレンダーから切り離されたかのように、晴れ渡っていた。

 都内某所の教会の一室で、白一色のウエディングドレスを纏い、片岡奈々子かたおか ななこは父を待っていた。

 来てくれるかどうかわからない。

 来てくれたとしても、奈々子は父を父と認識できるかどうかわからなかった。

 父と母が離婚したのは20年以上前で、そのとき奈々子は4歳だった。

 奈々子は母親の方に引き取られ、現在に至るまで父とは会ったことはない。


 父と母の間にどんなことがあったのか奈々子は知らない。

 幼い娘がいるのに離婚するからにはよほどのことがあったのだろう。

 何があったのかは知らないが、奈々子の記憶の中にあるのはただ優しい父の姿だった。

 結婚が決まり、父に式に出てほしいと思ったが、とても母には言えなかった。

 そこで、母に内緒で、父を探し出して結婚式の招待状を渡してもらうよう興信所に依頼した。

 興信所は父を見つけ出し、招待状を渡してくれた。

 だが、父は現在体が悪いようで式に出れるかどうかわからないということであった。

 出られないのならば、それは仕方ないと思った。

 式が終わって落ち着いたら、改めて会いに行こう。

 そう思っていた。


 母が親戚に何かの用事で呼ばれて、部屋に一人残されていたときのことだ。

 ドアをノックし、一人の中年男性が入ってきた。

 頬がやせこけ、目にはクマができている。

 体の弱そうな男だった。


「奈々子……さん……でんすね?」


「はい、そうですが……」


「信じてもらえるかわからないんですが……貴方の父親です……」


 男の手には興信所から父に渡ったはずの招待状があった。


 男が生き別れた父親であると確信した奈々子の目から涙が流れ落ちた。


「お父さん!!」


 駆け寄ろうとする奈々子を男は手で制止した。


「お母さんに見つかるとまずい。すぐ失礼するよ」


「でも……」


「大丈夫。式は最後まで見させてもらうから」


 男はそう言って踵を返し、部屋を出る際に一言こう言い残したのだった。


「結婚、おめでとう」



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