第26話
自分視点
雀荘のドアを開けると、
音が一気に流れ込んでくる。
牌が触れ合う乾いた音。
自動卓の低い唸り。
誰かの笑い声と、
誰かのため息。
私はそれを
「普通」だと思うことにしている。
思わないと、
立っていられないから。
今日もシフトに名前がある。
シフトなら、納得はいく。
けれど、
シフトに入っていない日に
急に呼び出されることも、
少なくない。
それだけで、
胸の奥が少し固くなる。
オーナーは、
すでに店にいる。
いつもより声が大きい。
機嫌がいいのか、
悪いのかは分からない。
違いはない。
どちらにしても、
空気は張りつめる。
「ちゃんと見てるからね」
それは励ましの言葉だ。
たぶん。
私はうなずく。
反射みたいなものだ。
卓に入ると、
呼吸が浅くなる。
一局、二局。
ミスはしていない。
注意もされていない。
なのに、
腹の奥がじわじわと痛む。
誰かに責められている
わけでもない。
ただ、
見られている。
何を?
何のために?
考え始めると、
頭が遠くなる。
だから、考えない。
考えない代わりに、
数を数える。
この局は、
あとどれぐらいで終わるのか。
シフトには
何時までと書かれてはいるが、
オープンから終電まで
いたこともある。
だから、
対局で時間を想像する。
時間を刻むことで、
私は存在を保っている。
社員Hがいる日は、
少しだけ違う。
劇的に楽になるわけじゃない。
ただ、
息を吸っても
怒られない気がする。
「無理しないで」
Hは、そう言う。
でも
「無理してるよね」
とは言わない。
それが、ありがたい。
私は
「大丈夫です」
と答える。
本当かどうかは、
自分でも分からない。
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