第49話 逃げる

 全身棘だらけの牛型モンスターは、こちらを嘲笑うかのように動いていた


 巨体に見合わない加速

 地面を蹴る音より先に、視界の端が歪む

 次の瞬間には、空気が裂ける音と共に無数の棘が迫ってくる


 魔力障壁を三層、即座に展開

 棘が触れた瞬間、弾かれるもの、貫通するもの、砕け散るものが混ざる


 防ぎ切れていない


 偏向防御を重ねるが、数が多すぎる

 角度が悪い


 舌打ちが漏れた


 魔力弾を連射する

 牽制目的


 しかし牛は棘を盾のように使い、弾を受け流す


 少し距離を詰めようと踏み込んだ瞬間、地面から棘が噴き上がる


 回避が半拍遅れた

 魔力鎧が削れる


 一方的だ


 攻撃の手数、範囲、速度、すべて向こうが上


 冷静に考えろ、と自分に言い聞かせる

 だが思考の端で、確実に焦りが生まれているのが分かった


 このまま削られ続ければ、いずれ詰む。


 魔力弾の出力を一段階上げる

 それでも決定打にならない


 棘の隙間を縫うように撃ち込んでも、

 致命部位に届く前に弾かれる


 仕方ない


 俺は奥歯を噛みしめ、意識を切り替えた


 荒天


 普段なら極力使わない手札だ

 周囲への影響が大きすぎるし、何より自分の消耗が無視できない

 だが、今はそんなことを言っていられない


 空間に展開した魔力陣から、無数の高出力魔力弾が生成される

 荒々しい

 叩きつけるような弾幕


 牛が咆哮し、全身の棘を逆立てる


 迎撃のために放たれた棘と魔力弾が空中で激突し、衝撃波が草原を削り取った


 これでも倒しきれない


 しかし、隙はできた


 魔力刃を生成

 出力を極限まで絞り、圧縮する

 刃というより、針に近い

 だが内部の魔力密度は、これまでで最大


 腕が軋む

 魔力制御が追いつかず、頭が鈍く痛む


 それでも構わず、踏み込んだ


 牛の側面。棘の密度が薄くなっている位置

 そこへ、全力で魔力刃を叩き込む


 抵抗があった

 骨に当たる感触

 さらに押し込む。魔力を流し込む


 次の瞬間、内部から破裂するように魔力が解放され、牛の体が大きく揺れた


 咆哮が悲鳴に変わる


 俺は追撃せず、距離を取る

 正解だった

 牛は暴れ、無差別に棘を撒き散らしながら、数歩進んでから崩れ落ちた


 地面が震える


 ……倒した


 全身が重い

 呼吸が浅く、肺が熱を持っている

 魔力の制御が明らかに鈍い


 これはまずい


 そう思った瞬間だった


 空気を裂く音


 反射的に障壁を展開するが、間に合わない。

 棘が肩を掠める


 視線を向けた先。

 草原の向こうから、複数の影がこちらを見ていた


 今倒したはずの牛型モンスター

 一体ではない


 群れだ


 冗談だろ、と心のどこかで思う

 だが現実は変わらない


 今の状態で、あれを相手にするのは無理だ


 勝てない


 判断は一瞬だった


 隠密魔法を最大出力で展開

 存在感を削ぎ、魔力の揺らぎを押さえ込む


 そして、全力で走った


 背後で棘が地面を穿つ音がする

 完全には撒けていない

 それでも、気配は徐々に薄れていく


 肺が焼ける

 脚が悲鳴を上げる

 それでも止まらない


 しばらく走り続け、完全に気配が消えたのを確認してから、ようやく足を止めた


 膝に手をつき、荒い呼吸を繰り返す

 視界が揺れる


 最深ダンジョンは、やはり甘くない


 それでも、生きてる

 今はそれだけで十分だ







本作を読んでいただきありがとうございます!


 勢いで描き始めた作品なので話の矛盾点や誤字脱字などがあったら教えていただけると嬉しいです!


 あと、主人公はモブなので基本的に登場人物に深入りなどはしません。当時人物がどんな性格か、どれくらいの強さかといったことが気になったらコメントしてください!


 そして少しでも面白いと思って頂けたら、作者の励みになりますので♡や⭐︎、感想などよろしくお願いいたします!!

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