第10話 価値が、崩れる音
その夜、
ラストは
眠れなかった。
胸の奥で、
何かが
軋み続けている。
痛みではない。
恐怖でも、
ない。
――違和感。
水晶板を
机に置き、
見つめる。
レベル:1
変わらない。
それなのに。
板の奥から、
微かな
反応が
返ってくる。
まるで、
こちらを
探っている
ように。
「……何を
知りたいんだ」
答えは、
なかった。
そのとき。
水晶板の
表面が、
静かに
歪んだ。
文字が、
一行だけ
浮かび上がる。
【問い】
あなたは、
世界を
変えましたか
ラストは、
息を
止めた。
「……そんな
質問、
聞いたこと
ない」
経験値は、
倒した数で
決まる。
レベルは、
強さの
証明だ。
それが、
常識だった。
問いは、
それを
無視している。
【はい】
【いいえ】
二つの
選択肢。
指が、
震える。
「……いいえ」
即座に、
選んだ。
水晶板は、
沈黙した。
だが。
奥で、
何かが
引っかかる
感触が
残る。
翌朝。
村で、
異変が
起きた。
冒険者の
一人が、
叫んだ。
「……上がらない」
「昨日、
確かに
倒した」
「なのに、
経験値が
ゼロだ」
騒ぎが、
広がる。
別の
冒険者も、
水晶板を
叩く。
「表示が
おかしい」
【取得経験値:0】
誰も、
理解できない。
「不具合だ」
「管理者に
報告しろ」
ラストは、
その中心で
立ち尽くす。
胸の奥が、
重い。
自分が、
「いいえ」を
選んだ。
それだけで、
世界が
反応した。
境界の
方角から、
風が
吹いた。
石壁が、
音もなく
崩れる。
誰も
壊して
いない。
「……定義が
外れてる」
ラストの
口から、
自然と
言葉が
漏れた。
「討伐が、
意味を
失ってる」
ミアが、
彼を見る。
「じゃあ……
何が
意味を
持つの?」
ラストは、
答えられなかった。
まだ、
認められない。
夜。
再び、
水晶板が
光る。
【再問】
あなたは、
世界を
変えましたか
逃げ場は、
なかった。
害獣の夜。
檻の
開いた音。
境界に
立った
自分。
いなくなった
数日間の
沈黙。
すべてが、
胸を
締め付ける。
「……変えた」
喉が、
かすれる。
それでも、
続けた。
「でも」
「壊して
ない」
一瞬、
世界が
止まった。
水晶板が、
眩く
光る。
【回答:
保留】
レベル表示は、
まだ
変わらない。
だが。
世界の
裏側で、
大きな
歯車が
回り始めた。
管理層に、
警告が
走る。
【定義不安定】
【更新条件
接近】
ラストは、
空を
見上げる。
怖い。
だが。
もう、
目を
逸らせない。
――少年は、
初めて
世界から
問いを
投げ返された。
次に
答える時。
すべてが
変わる。
それを、
本能で
理解していた。
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