第3話 ハーミルトンの聖女

♪♪♪

ハーミルトンの聖女

金髪の長い髪、空のような青い瞳

天から遣わされた美少女

誰もを癒やす、民たちの希望

その名はインバラジアンにとどろく

ハーミルトンの聖女



──────────



ハーミルトンの聖女は実在の人物らしい。

今から約百年前のことだ。

十五歳で教会に入門した少女は能力を開花させた。

その若さと美貌は誰もが美しいと称賛したそうだ。

誰に対しても時に優しく微笑み、時に共に涙して、皆に優しく接したという。

教会には連日のように信者のみならず病人、怪我人が集まり、治療を施したと伝わっている。

治療は魔法、治癒魔法であり、神の御業の体現者だった。

数多くの奇跡が伝えられているが、栄光は長くは続かず、二十五歳の若さで衰弱し、息を引き取った。

どうやら彼女の奇跡の一部は彼女自身の寿命と引き換えに、相手を治療するものがあったようだ。

自らの命の代わりに多くの人々を癒やした聖女の人気は死後も続き、とどまるところを知らなかった。

こうして聖女の死を悼み、教会は聖女を名実ともに聖人の一人に列した。


教会でもこの歌は歌われた。公式な歌詞は一番のみだ。

しかし市民たちは勝手に歌詞を書き加え、非公式ながら十番まであると言われている。


聖女のような金髪碧眼の女の子が生まれると、みな聖女のように大切に育てるという。

しかし決して聖女と同じ名前、アリサとは名付ける親はいない。

聖女は偉大だったが早死し、本人が幸せだったかは、伏せられているからだ。

できれば我が子には幸せに、健康で長く生きてほしいだろう。

こうしてアリサという名前はこの国では、聖女のための永久欠番となった。

また多くの人は公の場では決して聖女の名前は口にせず、代わりに教会のあった都市の名前で、ハーミルトンの聖女と呼ぶのだ。

聖女に憧れる女の子は、聖女のように髪を伸ばしたがるが、一般市民では手入れが大変なため、あまり伸ばしている子は少ない。

金髪碧眼のロングヘアの子は皆のアイドル的存在として、よくちやほやされた。

もちろん、男子たちにも、ことさら人気だ。


ハーミルトンの聖女像は教会や多くの広場に建てられている。ポピュラーな像のモチーフだった。

その像はだいたい十五歳の幼さと女性らしさの絶妙な中間の美しい姿をしていた。

聖女像の神々しい長い金髪は実際に金箔が貼られ、その偉業を現代に伝えている。


なお「聖女の奇跡は死者には及ばず」という慣用句が残っている。

どんなにひどい怪我や病気でもたちどころに治療した聖女ではあったが、死者の復活、蘇生魔法は使えなかったのだろう。

俺も使えないし、使えるという話も聞いたことがない。

唯一、アンデッドとしてなら生き返られるという噂があるのみだった。

俺は死体のまま生き返りたいとは思わないので、御免こうむる。

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