第8話 学校側の対応
事件から三日が経過した。
結衣は一般病棟に移り、顔の腫れもようやく引き始めていた。
まだ精神的なショックから口数は少ないが、「お家に帰りたい」と小さく呟くようにはなっていた。
私は夫に付き添いを頼み、学校からの呼び出しに応じることにした。
通された校長室には、重苦しい空気が漂っていた。
部屋に入った瞬間、田中校長、教頭、そして養護教諭の里見先生の三人が、直角に腰を折って頭を下げた。
「この度は、本校教員の不適切な指導により、結衣さん、そしてご家族に多大なる苦痛と危険を与えてしまい、誠に申し訳ございませんでした!」
校長の声は震えていた。
「……頭を上げてください。謝罪の言葉よりも、これからどうされるのか、具体的なお話を聞きたいです」
三人が顔を上げる。
校長の顔は心労でげっそりとやつれ、目の下には濃い隈ができていた。
「はい……。まず、当該教員の権田ですが、現在は自宅待機を命じております。教育委員会へは事の顛末をすべて報告し、懲戒処分を検討中です」
「権田先生は、なんと仰っているんですか?」
私が尋ねると、校長は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「それが……お恥ずかしい話ですが、彼はまだ事態の深刻さを完全には理解していないようです。『指導の一環だった』『動機は善意だった』などと……」
ドォォン!!
私は思わず膝の上で拳を握りしめ、テーブルを叩きそうになった。
まだ、そんなことを言っているのか。
「あいつは……権田は、人間として何かが欠落しています。私は彼を教壇に立たせた責任者として、腹を切って詫びたい気持ちです」
そして、横に控えていた里見先生が一歩前に出た。
「お母さん。私も、同罪です」
彼女は涙をこらえるように唇を噛んでいた。
「出張なんて行かずに、教室に張り付いていれば……私の油断が、結衣さんを危険な目に遭わせました」
「里見先生、自分を責めないでください」
私は首を横に振った。
「先生がすぐに駆けつけて、エピペンを打ってくれなかったら、結衣は助かりませんでした。先生は娘の命の恩人です」
「うぅ……っ」
里見先生は両手で顔を覆い、嗚咽を漏らした。
私は校長に向き直り、毅然とした態度で告げた。
「校長先生。要望は二つあります」
「一つ目は、権田先生を二度と娘に近づけないこと。彼が学校にいる限り、娘は登校できません」
「二つ目は、アレルギー対応の徹底です。全教職員の意識を変えてください」
「肝に銘じます。彼が再び本校の教壇に立つことは、私が職を賭して阻止します」
校長の言葉に嘘はないようだった。
医師の診断書、そして警察の受理が、組織を本気にさせたのだ。
「それから、お母さん。ある先生が『いてもたってもいられない』と連絡をくれまして」
校長室のドアがノックされ、控えめに開いた。
そこに立っていた人物を見て、私は思わず声を上げた。
「宮本先生……!」
産休に入っていたはずの、前の担任の宮本先生だった。
「お母さん、結衣ちゃん……大変でしたね」
その懐かしい声を聞いた瞬間。
張り詰めていた私の心がようやく解け、目頭が熱くなった。
戦いはまだ終わっていない。
けれど、娘が戻るべき場所は、少しずつ修復されようとしていた。
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