Op.Ⅷ "Con grazia"

夕食を終え、お礼に青年からのお願いで家の片づけを彼と一緒にをしていた。その時、外で銃声が聞こえた。私は反射的に驚いて本を落としかけてしまったが、彼は大きな音を決して出さないよう深刻そうな顔で私に伝えた。気付かれると、私たちも襲撃の対象になりかねないらしい。そして、この都市ではこれが当たり前なのだという。でもそれは、私の過去に通ずるものがあった。私は、気付いた時には自ら私の過去を彼に語っていた。

そして、彼は大粒の透明な涙を流し、こう言った。


"そういえば、名前を聞いてもいいかい?"

"エトワール。エトって呼んで。"


私は、自らをエトと名乗ることにもはや躊躇いは無かった。それは、今まで私が貰った唯一の名前だから。

そして、彼は私にこう聞いた。


"エト、一度だけ抱きしめてもいいかい。"

"うん。"


そうして、彼は泣きながら私を抱きしめた。私も、彼を抱きしめた。彼の気持ちが痛いほどに解るから。

それから夜が明け、彼はまた無理をして朝ごはんを作ってくれた。それも、昨日のようなスープとパンとソーセージであったが、どれも昨日とは少しだけ違っていた。スープはトマトスープになり、パンはトーストに、そしてソーセージはバジル入りの物になっていた。 また、頂きますを述べた後、2人で談話しながら朝食を摂った。 やはり暖かく、美味しかった。 そして彼にもまたこう言った。


"また、いつか。"

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る