第4話 英雄の末路
均衡庁が、
英雄を
公表したのは、
三日後だった。
名は、
セイル。
年若く、
迷いがなく、
実績は十分。
討伐記録は、
完璧に整えられ、
失敗は、
一切ない。
「……理想的ね」
ミュゼが、
冷たく言う。
「作られた英雄だ」
リゼアの声も、
硬い。
アルトは、
告知の結晶映像を
見つめていた。
歪みは、
ない。
感情の揺れも、
ほとんどない。
それが、
異常だった。
◇
英雄セイルは、
街を救う。
正確に。
迅速に。
迷いなく。
人々は、
喝采する。
だが、
どこか静かだ。
恐怖は、
消える。
代わりに、
考えることが
消える。
「任せておけばいい」
「英雄がいるから」
その言葉が、
街に根を張る。
アルトの胸が、
軋んだ。
◇
次の街で、
事件は起きた。
魔物は、
想定より弱い。
だが、
住民の避難が
遅れていた。
「英雄が来る」
その期待が、
判断を鈍らせる。
セイルは、
到着する。
完璧な一撃。
魔物は、
倒れる。
だが――
崩れた建物の下に、
人が残っていた。
助けを、
求める声。
セイルは、
動かない。
均衡庁の
指示が、
届くまで。
「二次災害の
可能性あり」
「英雄は、
前進せよ」
命令は、
冷たい。
セイルは、
頷く。
助けを、
見ない。
人は、
死んだ。
◇
「……なぜ、
助けなかった?」
アルトは、
問いかける。
セイルは、
表情を変えない。
「命令外行動は、
均衡を乱す」
「私は、
英雄です」
その言葉に、
アルトは、
息を詰まらせる。
「英雄は、
人を助ける
存在だ」
「定義が、
違います」
セイルは、
淡々と言う。
「英雄は、
世界を安定させる
装置です」
装置。
その言葉が、
決定的だった。
◇
夜。
アルトは、
ミュゼと
リゼアに告げる。
「……彼は、
壊れていない」
「最初から、
人じゃない」
ミュゼが、
歯を噛みしめる。
「均衡庁は、
そこまで
行ったのね」
リゼアは、
剣を握る。
「止める?」
アルトは、
首を振った。
「止めても、
次が出る」
「問題は、
個人じゃない」
◇
翌日。
英雄セイルは、
単独で
大規模歪みに
投入された。
勝算は、
低い。
だが、
均衡庁は
躊躇しない。
「英雄は、
消耗品」
内部の言葉が、
漏れた。
戦闘は、
苛烈だった。
セイルは、
命令通りに
前進し続ける。
撤退命令は、
出ない。
歪みが、
限界を超える。
光。
爆音。
英雄は、
消えた。
◇
報告は、
美化された。
「英雄は、
世界のために
散った」
称賛。
碑文。
次の候補。
だが。
アルトは、
確かに見た。
最後の瞬間。
セイルの、
ほんの一瞬の
迷い。
命令ではなく、
助けを
見た目。
それは、
遅すぎた。
◇
「……これが、
末路だ」
アルトは、
呟く。
「選ばされ続けた
人間の」
ミュゼが、
静かに言う。
「均衡庁は、
英雄を
救っていない」
「使って、
捨ててる」
リゼアが、
決意を込めて
頷く。
「なら、
壊すしかない」
「制度を」
アルトは、
空を見上げた。
英雄のいない
夜空。
恐ろしく、
そして――
自由だ。
「……次は」
静かに、
言う。
「均衡そのものを
問いに行きます」
英雄の末路は、
終わりではない。
それは、
均衡庁が
越えてはならない線を
越えた証だった。
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