第4話「涼真の作戦は想像以上だ」

 駅前で遼輔と別れた後、涼真は一人で歩きながら考えていた。

 今日、遼輔と遊んでいる時に感じたこと。

 あいつ、本当に鈍感すぎる。

 東雲さんのことを完全に「幼馴染」としか見ていない。いや、見ていないフリをしているだけかもしれないが、どちらにしても進展がなさすぎる。

 朝は一緒に登校して、休日も勉強教えて、帰りも一緒。

 誰がどう見ても、もうカップルみたいなものなのに。

 当の本人たちだけが気づいていない。

「あー、もどかしい」

 涼真は大きくため息をついた。

 東雲さんは明らかに遼輔のことが好きだ。それは、少し話せば分かる。遼輔の話題になると、表情が明るくなる。視線が優しくなる。

 でも、東雲さんは奥手すぎて、自分からアタックできない。

 一方、遼輔は「年上お姉さんが好き」とか「幼馴染は恋愛対象じゃない」とか、意味不明な理論で自分の気持ちから逃げている。

 このままじゃ、絶対に進展しない。

 涼真はスマホを取り出して、ある人物の連絡先を開いた。

 小鳥遊結衣。

 東雲さんの親友で、クラスメイトでもある。こいつなら、きっと協力してくれるはずだ。

 いや、協力してくれるというより、絶対に乗ってくる。

 涼真はメッセージを打ち始めた。

『小鳥遊、ちょっといいか?』

 送信して数秒後、すぐに返事が来た。

『は?九条から連絡とか珍しいね。何の用?』

 相変わらずトゲのある返事だ。

 涼真は苦笑しながら、続けて打った。

『遼輔と東雲さんのことなんだけど』

『……聞く』

 即答だった。

 やっぱり、こいつも思っていたんだな、と涼真は思った。

『あいつら、このままじゃ絶対に進展しないだろ』

『当たり前でしょ。澪は奥手すぎるし、三崎君は鈍感すぎる』

『だよな。だから、ちょっと背中を押してやろうと思ってさ』

『……どういうこと?』

 涼真はニヤリと笑って、スマホに文字を打ち込んだ。

『作戦を考えた。協力してくれ』

『作戦?怪しいんだけど』

『怪しくない。ちゃんとした作戦だ』

『で、どんな作戦よ』

 涼真は、頭の中で組み立てた計画を文章にしていく。

『まず、俺が遼輔を誘う。お前は東雲さんを誘う』

『ふむふむ』

『んで、偶然を装って4人で会う』

『……は?』

『例えば、ショッピングモールとか映画館とか。そういう場所で「あれ、偶然だね!」って感じで合流する』

『ベタすぎない?』

『ベタでいいんだよ。大事なのはその後だ』

 涼真は続けて打った。

『4人で遊んでるうちに、俺たちが適当に理由つけて離れる。そうすれば、自然と遼輔と東雲さんの二人きりになる』

『なるほど……』

『二人きりの時間を作れば、何かしら進展するかもしれないだろ』

『確かに。でも、三崎君が気づくかな』

『それはまあ……賭けだな』

 涼真は正直に答えた。

『でも、何もしないよりはマシだろ』

 しばらく、既読がついたまま返信が来なかった。

 小鳥遊が考えているんだろう。

 一分ほど経って、ようやく返事が来た。

『分かった。協力する』

『マジで?』

『だって、私も澪の恋、応援したいもん。あの二人、早く付き合ってほしいし』

 涼真は小さくガッツポーズをした。

『よし、じゃあ作戦開始だ』

『でも、九条』

『ん?』

『この作戦、失敗したらどうするの?』

『失敗って?』

『三崎君が全然気づかなかったり、逆に気まずくなったりしたら』

 涼真は少し考えて、答えた。

『その時はその時だ。少なくとも、今よりは何か変わるだろ』

『……適当すぎ』

『適当じゃない。柔軟な対応って言うんだよ』

『はいはい。で、いつやるの?』

『できるだけ早い方がいいけど……全員の予定が合う日だな』

『ちょっと待って、澪のスケジュール確認する』

 既読がついて、しばらく待つ。

 三分後、小鳥遊から返信が来た。

『今週の日曜日なら大丈夫そう』

『今週の日曜?四日後か』

『うん。澪、その日は予定ないって』

『了解。じゃあ、俺も遼輔に確認してみる』

 涼真は遼輔に電話をかけようとして、やめた。

 電話だと、何か勘づかれるかもしれない。

 メッセージの方が安全だ。

『今週の日曜、暇か?』

 遼輔から返信が来るまで、少し時間がかかった。

『たぶん暇。バイトも入ってないし』

『じゃあ、遊びに行こうぜ。ショッピングモールとか』

『ショッピングモール?お前、買い物するの?』

『いや、ゲームとか見に行きたいだけ』

『まあ、いいけど』

『決定な。じゃあ日曜の昼、駅前集合で』

『了解』

 涼真は小鳥遊にメッセージを送った。

『遼輔、日曜OKだって』

『よし、じゃあ決定だね』

『で、どこで合流する?』

『ショッピングモールの入り口付近がいいんじゃない?』

『ああ、それがいいな。じゃあ、俺たちは昼過ぎに着くように行く。お前らは?』

『少し遅れて行く。で、偶然会ったことにする』

『完璧だな』

『でも九条、一つだけ確認』

『何?』

『この作戦、本当に上手くいくと思う?』

 涼真は少し考えた。

 正直、上手くいくかどうかは分からない。

 遼輔は本当に鈍感だし、東雲さんも奥手だ。

 でも、何もしないよりは、絶対にマシだ。

『上手くいくさ。俺を信じろ』

『……その自信、どこから来るの』

『男の勘』

『最悪』

『うるせえ』

 涼真は笑いながら返信した。

『とにかく、日曜日は頼んだぞ』

『分かってる。こっちも準備しとく』

『おう。じゃあまた後で』

『うん』

 メッセージのやり取りが終わり、涼真はスマホをポケットにしまった。

 家に向かって歩きながら、作戦の詳細を頭の中で整理していく。

 まず、遼輔と一緒にショッピングモールに行く。

 適当に店を見て回って、時間を潰す。

 そのうちに、小鳥遊と東雲さんが「偶然」現れる。

「あれ、東雲さんじゃん!こんなところで会うなんて偶然だね」みたいな感じで合流。

 四人で遊び始める。

 そして、適当なタイミングで俺と小鳥遊が離れる。

 理由は何でもいい。トイレに行くとか、別の店を見たいとか。

 そうすれば、自然と遼輔と東雲さんが二人きりになる。

 そこで、いい雰囲気になってくれれば——。

「……我ながら、完璧な作戦だな」

 涼真は満足そうに頷いた。

 もちろん、失敗する可能性もある。

 遼輔が気づかない可能性も、東雲さんが緊張して何も話せなくなる可能性も。

 でも、それでもいい。

 少なくとも、二人に「何か」のきっかけを与えることはできる。

 後は、本人たちの問題だ。

 涼真は空を見上げた。

 夕焼けが綺麗に広がっている。

 四日後、この作戦が上手くいくことを祈りながら、涼真は家路を急いだ。


 その頃、結衣は自分の部屋で澪に電話をかけていた。

「もしもし、澪?」

「あ、結衣。どうしたの?」

「今週の日曜日、予定ある?」

「日曜?特にないけど……」

「じゃあ、一緒にショッピングモール行かない?」

「え、急にどうしたの?」

「いや、ちょっと服とか見たくてさ。一人で行くのも寂しいし」

 結衣は嘘をついた。

 本当は、涼真の作戦に協力するためだ。

 でも、それを今言ったら、澪が緊張して当日失敗するかもしれない。

 だから、あくまで普通のショッピングとして誘う。

「そっか。じゃあ、行こうか」

「やった!じゃあ日曜の昼過ぎね。駅前集合で」

「うん、分かった」

「楽しみだね」

「うん。久しぶりに結衣とゆっくり買い物できるし」

 澪の嬉しそうな声が聞こえる。

 結衣は少しだけ罪悪感を感じたが、これも澪のためだ、と自分に言い聞かせた。

「じゃあ、また日曜ね」

「うん。楽しみにしてる」

 電話を切って、結衣はベッドに寝転がった。

「さて、どうなることやら」

 結衣は天井を見上げながら、呟いた。

 涼真の作戦が上手くいくかどうかは分からない。

 でも、少なくとも何かが動き出すことは確かだ。

 澪と三崎君の関係が、少しでも前に進めばいい。

 そう願いながら、結衣は目を閉じた。


 四日後の日曜日。

 作戦決行の日が、もうすぐやってくる。

 遼輔は何も知らず、いつも通りの休日を過ごしていた。

 澪も、結衣とのショッピングを楽しみにしていた。

 そして、涼真と結衣は、それぞれの計画を胸に秘めていた。

 この日が、二人の関係を変える最初の一歩になるかもしれない。

 それとも、何も変わらない一日で終わるかもしれない。

 それは、まだ誰にも分からなかった。

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