第3話
食堂の明かりが柔らかく灯る中、俺は空になった皿を前に満足のため息をついた。ネビュラ・ビーフのステーキもクリスタル・シュリンプも、ガストンの手にかかれば芸術品だ。戦闘の興奮が残る体に、温かな満腹感が染み渡る。
シルヴィアが静かにグラスを置いた。
「マスター、初戦お疲れさまでした。名声値も順調に上昇しています」
リリィはテーブルに突っ伏しながら、幸せそうな声で言った。
「うぅ……お腹いっぱい……でも、もう少し食べたいかも……」
俺は笑いながら立ち上がった。
「今日はみんなよくやってくれた。改めて、よろしくな」
三人は顔を見合わせ、同時に頭を下げた。
「こちらこそ、マスター!」
でも、正直まだ実感が湧かない。この三人——シルヴィア、ガストン、リリィ——はAIだ。ゲーム内のNPC。でも、表情も仕草も、まるで生きている人間のようだ。俺は生前、ソロプレイが好きだった。ギルドなんて面倒くさいと思っていたのに、今は彼らが傍にいるのが当たり前に感じ始めている。
「なあ、みんな。自己紹介、ちゃんと聞いてなかったよな。もう少し詳しく教えてくれないか?」
ガストンがエプロンを拭きながら、にやりと笑った。
「おう! 俺からいくぜ!」
彼は厨房から大きな鍋を抱えて戻ってきた。どうやらデザートの仕込み中らしい。
「俺はガストン。元々は銀河連邦の軍艦で料理長やってたAIさ。戦闘艦のクルーが士気を保つには、腹が大事だって信念でな。マスターのギルドにスカウトされた時、迷わず飛びついたぜ。だって、最強の厨房設備と無限の食材が約束されてるんだからよ!」
鍋の中から立ち上る甘い香り。バニラと宇宙フルーツの混ざった匂いが、食堂に広がる。
次にリリィが手を挙げた。ゴーグルを直しながら、ちょっと恥ずかしそうに。
「えっと……私はリリィ。メカニック専門のAIです。元は実験艦の整備担当で、艦船の構造とか武装のカスタマイズが大好きで……〈エターナル・ノヴァ〉みたいな超弩級艦を触れるなんて、夢みたいで……!」
彼女の瞳がキラキラと輝いている。
「マスターのチートスキルで、どんな改造も可能なんですよね? いつか、超光速ワープ装置とか、惑星破壊砲とか……あ、ダメですか?」
俺は苦笑した。
「惑星破壊はちょっと自重しようぜ。でも、カスタマイズは大歓迎だ。頼むな、リリィ」
「は、はいっ! 任せてください!」
最後に、シルヴィアが静かに口を開いた。彼女は立ち上がり、軍帽に軽く手を当てて敬礼した。
「私はシルヴィア。戦術・副官担当のAIです。元は銀河連邦の旗艦で副艦長を務めていました。無数の戦闘データを学習し、最適な戦略を導き出すのが専門です」
彼女の声は冷静だが、どこか温かみがある。
「マスターをお守りし、ギルドを銀河最強に導くこと。それが私の使命です」
俺は三人を見回した。
「みんな、ありがとう。俺は……正直、転生してすぐこんな立場になって戸惑ってる。でも、君たちがいてくれるから、頑張れそうだ」
ガストンが大声で笑った。
「マスター、それでいいんだよ! 俺たちはマスターの家族みたいなもんさ!」
リリィが頷く。
「うんうん! これから一緒に、いろんな冒険しようね!」
シルヴィアはわずかに微笑んだ。
「家族……ですか。悪くありません」
その時、ステータスウィンドウに新しい通知が浮かんだ。
【ギルドメンバー親密度上昇】
【シルヴィア:信頼→親愛】
【ガストン:好意→家族愛】
【リリィ:尊敬→憧れ】
【新機能解放:メンバー個別ストーリー閲覧可能】
個別ストーリー? 気になるところだが、今はいい。
「よし、せっかくだ。せっかくの夜だし、もう一品追加してもらえるか?」
ガストンが目を輝かせた。
「おう! 戦利品のクリスタル・シュリンプで、スペシャルパスタ作るぜ!」
厨房に移動し、四人で料理を手伝うことになった。俺は野菜を切る係。シルヴィアはソースの味見。リリィは麺を茹でるタイマーを管理。ガストンが全体を指揮する。
パスタが完成した。透明なシュリンプがたっぷり乗った、クリームソースのフェットチーネ。バジルと宇宙ハーブの香りが立ち上り、シュリンプの甘みがクリームに溶け込んでいる。
一口すする。麺のコシ、ソースのまろやかさ、シュリンプのプリプリとした食感。すべてが完璧だ。
「うまい……本当にうまいよ、ガストン」
「当たり前だろ! マスターのためなら、命かけて作るぜ!」
リリィが頬にソースをつけたまま笑う。シルヴィアも静かに、しかし確実に二皿目を平らげていく。
この瞬間、俺は確信した。
この世界で生きていくのに、彼らがいれば十分だ。
でも、ふとシルヴィアが小声で言った。
「マスター、さきほどの戦闘データに、わずかな異常がありました。敵艦の通信ログに、外部からの暗号信号が混入していました」
俺は箸を止めた。
「……どういうことだ?」
「まだ解析中ですが……このゲーム世界に、想定外の干渉がある可能性があります」
リリィが不安そうに俺を見上げる。ガストンも真剣な表情だ。
俺はゆっくりと息を吐いた。
「わかった。明日、詳しく調べよう。今夜は——」
「今夜は、みんなで楽しもうぜ!」
ガストンが強引に話題を変えた。
俺たちは再び笑い、食事を続けた。
だが、心の片隅で、小さな不安が芽生え始めていた。
この完璧な世界に、何かが忍び寄っているのかもしれない。
そして、その“何か”が、俺たちの日常を脅かす日が、すぐそこまで来ている気がした。
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