第2話 泡沫な金色



 真っ白の空間の中。


 ……あぁ、またここに来た、と雫は気付いた。


 ここは夢の世界。起きたら忘れてしまうけど、ここに来たら思い出す。話した事は無いけれど、優しい顔をしたあの人がいる場所だ。


 雫はきょろきょろと周りを見渡した。すると、綺麗に輝く長い金髪の後ろ姿が目に入る。


 あ、あの人だ。


 雫は急いでその人の元へ駆け寄る。今日こそは、お話しできるかな。

 わくわくした気持ちで雫が話しかけた時、その人が振り向いた。その表情はいつもの優しいものではなく、眉間に皺を寄せて険しい表情。そして口をパクパクさせて私に何かを伝える。


「え?何?聞こえないよ??」


 そこで夢は終わった。パチリと瞳を開けると白い天井にグレーのカーテン。


 ……あれ?何か夢を見てた気がするけど、どんな夢だったけ??


“ぴよぴよりん、ぴよぴよりん、朝だよ〜朝だよ〜”


 昔から使ってるゆるキャラのひよこ、ぴよりんの目覚まし時計が部屋に鳴り響く。


「雫ー、瑠璃ちゃん来ちゃうわよー?」


 一階のリビングから母親の声が聞こえる。ぴよりん時計を見るとすでに起床時間を過ぎていた。


 嘘?!もうこんな時間?!遅刻するっ!!


「わかった!今すぐ行くー!」


 大きな声で母親に返事をし、机の上の課題を鞄に入れ慌てて身支度をする。その頃には、夢の事なんて私は完全に忘れていた。



――――

――


「しーずーくー、遅い」


「ごめん、ごめん。ちょっと寝坊しちゃって」


「早く行くよ?今日は進級式なんだから」



 外に出ると幼馴染の三橋瑠璃が待っていた。三橋家は私の家の真正面にあり、保育園からの付き合いだ。

 四月の春風が私たちを包み心地よい。この四月で私たちは高校ニ年生になる。

 

 慣れた道を歩きながら、今年も同じクラスだといいなと願って学校に向かう。


「雫、見てみて?あそこにコスメショップが入るんだって」


 大きな交差点の赤信号で立ち止まると、瑠璃が目の前の建設途中のビルを指差した。まだ、工事の足場でビル自体は見えないが完成は間近。テナントもほとんど決まっていて、コスメ専門店が入るらしい。ここは特別田舎だというわけではないけれど、お気に入りのコスメが近場にあるのはありがたい。


「いつ出来るんだろ?えーと、……あ、来月オープンだって。」


 携帯で検索をかけると、ゴールデンウイークにオープンと書かれていた。

 私も気になっていたし、瑠璃は前にリップ欲しいって言ってたしな。


「学校も休みだしオープン日に行こっか!」


「いいの?雫忙しいかなって思ってたんだけど、嬉しいっ!!」


 ぱあっと表情が明るくなり瑠璃の笑みが広がる。話題は、今欲しいコスメの話で持ちきりで、すぐに学校に到着した。



「お、雫!瑠璃!」


 瑠璃とクラス割をみていると、聞き慣れた声が私の名前を呼んだ。振り向くと幼馴染の同級生、朝霧隼人がこちらに向かってくる。彼も保育園からの付き合いだ。


「あ!隼人君、おはよー。今朝は早かったんだね」


 時間が合えば瑠璃と三人で登下校する程、私たちは仲がいい。


「朝練があったからな〜」


 隼人君は、バスケ部だ。彼曰く、春の大会で三年生が引退すると次のキャプテンを継ぐらしい。だからなのか、最近は自主練に励んでいるようだ。責任感のある隼人君らしい。


「新学期始まったばっかりなのに、朝練あるんだ。隼人お疲れさま」


 瑠璃がそう言いながら隼人君に巾着を渡した。


「はい。今朝隼人ママから預かった、おにぎり」


「お、瑠璃サンキュー。今朝慌てて家出たから忘れてさ」


 隼人君はお昼のお弁当の他に、朝練後におにぎりを食べるのが日課。

 運動部だからお腹が減るのだろうけど、あんなに食べても太らない彼が羨ましい。


「ほんと、雫もだけど隼人も昔から朝弱いわよね」


「うーん、朝はどうしても起きられないや。今朝もぴよりん鳴ってたけど、気づけなかったーっ」


「雫、まだあの目覚まし時計使ってんの?そろそろ変えなって」


 隼人君がケラケラ笑う。


「いいのー。お気に入りだから」


 ……隼人君には、この気持ちがわからないんだろうなぁ。


 雫は、隼人を横目で見る。ぴよりんは小学生の頃、隼人君から誕生日に貰ったものだ。歳を重ねるにつれ、お互いの誕生日にプレゼント交換する事はなくなっちゃったけど……。



「それで、クラス分けどうだった?俺もまだ見てなくてさ」


 どれどれ?と隼人君もクラス割を見る。私たち三人は同じクラスだった。


「お、ラッキー。今年も同じクラスだな」


 ぽんっと背の低い雫の頭を隼人が撫でた。


「みんな一緒だね〜。」


 二組と表記された下の欄に“朝霧隼人”、“藤ヶ谷雫”、“三橋瑠璃”の三人の文字があった。


「ん?あれ、雫。なんか髪についてた。」


 隼人君が私の手にフワッとのせる。


「……黄色の糸?」


 その糸が窓から入ってくる光を浴びるとキラリと金色に揺れた。


 っ、あれ??なんだっけ?どこかで見た気がするんだけど思い出せない……。


「隼人見っけ〜!」


「ったく、達郎。急に肩組んで来るなよ」


 私が考えていると、達郎君がニコニコの笑顔で隼人君に絡む。身長が高く、髪をハーフアップしてる彼は一見怖いと思われがちだが、実際は人懐っこくて凄く優しい人。ちなみに、隼人君によるとバスケ部の副キャプテンになるらしい。


「だって、隼人の高さ丁度いいからさ?」


「俺まだまだ成長期だから、体重かけんなし」


「それは楽しみだな。てか、俺も二組だった!雫、瑠璃、今年もよろしくな」


 隼人君は大きなため息をつきつつも、四人が一緒のクラスである事が嬉しい様子。私もこれから始まる二年生が楽しみでしかなかった。


 

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