2 幼馴染2

朝の校門は、やけに騒がしかった。


「きゃー!今日も来た!」

「王子様、おはよー!」


黄色い歓声が、まだ眠い頭に突き刺さる。

俺は思わず足を止めて、その中心にいる人物を見た。


……可憐だ。


すっきりとしたシャツに、きちんと着こなしたズボン。

背筋はまっすぐで、歩き方には一切の迷いがない。

髪は以前より少し整えられていて、朝の光を反射している。


正直に言ってしまえば――

どんな男子よりも、イケメンだった。


「今日も歓声を浴びての登校か?」


隣に並んで、俺はわざと軽く言った。


「王子様」


可憐は一瞬だけ顔をしかめて、それから小さくため息をついた。


「やめろよ……からかわれると、普通に恥ずかしい」


「でも事実だろ」


視線を向けると、女子たちが少し離れた場所からこちらを見て、ひそひそと話している。

目は明らかに可憐を追っていた。


「……なんでこうなるんだろ」


可憐は小さく呟いた。


「前より堂々としてるからじゃね?」


そう言うと、可憐は少しだけ驚いた顔をした。


「……しょう、そう見える?」


「ああ」


即答だった。


学校での可憐は、確実に変わっていた。

いや、正確には「戻った」に近いのかもしれない。


走れば誰よりも速く、体育の授業では無双状態。

サッカーでもバスケでも、男子が本気になっても敵わない。


しかも――顔がいい。


整った目鼻立ちに、中性的だった雰囲気が消え、

今では完全に「イケメン」のカテゴリに収まっている。


胸がある、という一点を除けば。


いや、それを含めてもだ。

見た目はもはや「胸のついたイケメン」だった。


「可憐くん!」


後ろから声をかけられる。

クラスの女子だった。


「今日もかっこいいね!」


「ありがとう」


自然な笑顔。

それだけで、相手は顔を赤くする。


……すごいな。


俺は少し離れて、その様子を眺めていた。


すると、その女子が今度は俺に近づいてきた。


「しょうくん、ちょっといい?」


「え、俺?」


「可憐くんってさ、どういう手紙なら喜ぶかな?」


別の日には、こんなこともあった。


「しょうくん、可憐くんにどうやって近づいたの?」

「幼馴染って強すぎじゃない?」


気づけば俺は、可憐を好きな女の子たちの相談役みたいになっていた。


正直、複雑だった。


胸の奥が、少しだけざわつく。

でもそれ以上に、不思議な感覚があった。


――誇らしい。


可憐が、自分らしく立っていることが。


放課後、二人で帰り道を歩く。


「最近、しょうモテてない?」


可憐が何気なく言った。


「なんでそうなる」


「女の子と話してるの、よく見るから」


「相談されてるだけだよ。全部お前の」


そう言うと、可憐は少し黙った。


「……ごめん」


「なんで謝る」


「俺のせいで、変な立場にさせてる気がして」


俺は足を止めて、可憐を見る。


「馬鹿」


そう言って、軽く笑った。


「お前が前向いて歩いてるなら、それでいい」


可憐は一瞬きょとんとして、それから、照れたように目を逸らした。


夕焼けの中で、その横顔は本当に――

王子様みたいだった。


俺は思う。


この先、関係はまた変わるかもしれない。

嫉妬も、迷いも、きっと出てくる。


でも今は。


幼馴染として、隣にいられるこの時間を、

少しだけ、大切にしていた。

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