春は桜と大福がよく映える

zakuro

第1話 藤枝駅北口のタイルの数

藤枝駅の北口に出ると、地面のタイルが規則的に並んでいる。私は改札を抜けてから立ち止まらず、歩きながらそれを見る。白と薄い灰色が交互に置かれていて、ところどころに黒い線が混じる。朝の光は強くも弱くもなく、タイルの表面に反射して、少しだけ眩しい。私は足の裏で感触を確かめるように進み、一枚ずつ踏む。何枚あるのかを、数えようとしている。


駅前のロータリーでは、バスが止まり、動き、また止まる。エンジン音は途切れ途切れで、一定ではない。タイルの数を数えるのは、その音に邪魔される。私は歩く速度を変えずに、数だけを続ける。途中で人に抜かれたり、前に人が現れたりするが、視線を上げない。数は途切れることがある。途切れたら、最初からやり直す。そう決めているわけではないが、そうしている。


北口の正面にある自転車置き場の前で、タイルの模様が少し変わる。長方形が混じり、間隔がずれる。そこで一度、数を失う。私は足を止め、戻る。戻るときも、数え直す。人の流れに逆らう形になるが、ぶつからない程度に動く。警備員が立っているが、こちらを見ているのかどうかは分からない。タイルは冷たくはなく、靴底を通しても温度は曖昧だ。


駅前の看板に貼られた紙が風で揺れている。内容は読まない。紙が揺れるたび、影がタイルの上を横切る。その影が、どのタイルにかかったかで、数がずれる気がする。私は影を避けることはしない。影のあるタイルも、ないタイルも同じように踏む。数えながら、数えられない感じが残る。残ったまま、次に進む。


信号の手前で立ち止まる。赤の時間は長い。横断歩道の白線は、タイルとは違う素材で、境目がはっきりしている。私はその境目の手前で止まり、最後に踏んだタイルの番号を思い出そうとする。思い出せないまま、信号が変わる。青になると、人が一斉に動く。私は流れに乗り、白線を渡る。渡りながら、タイルの数はここで終わりだと、一度だけ区切る。


渡りきった先で、またタイルが続く。続きなのか、別の始まりなのかは決めない。私は再び数え始める。右足、左足、同じ間隔。駅から離れていくにつれて、人の密度が変わる。車の音が増え、駅の音は薄くなる。それでもタイルは続く。私はそれを踏み、数え、途中で忘れ、また戻ることはしない。


藤枝駅北口のタイルは、途中で途切れる。途切れたところで、私は数を止める。止めた理由は特にない。そこから先は、普通の歩道になる。私は歩道を歩き、次の角を曲がる。タイルの数は、どこまで数えたのか分からないまま残る。残ったまま、私はそのまま進む。

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