クローキ博士

 クローキ博士

 ロンドンの街を愛する、自他共に認める中年紳士。

 博士と名乗るものの、友人が彼を「生きるシャーロック・ホームズ」と呼ぶほど推理力が群を抜いている者であり、どちらかといえば名探偵。


 迷子猫の場所当てからネギ泥棒の捕獲、そして巨大団地住所混合事件の真相……

 地元に事務所を構える彼は、これらの不可解な事件を次々に解決していく。


 いや、「解決していた」という表現の方が正しいのかもしれない。



「はぁー」


 クローキ博士はその日、曇った表情で事務所の椅子に座っていた。


「パパ、どうかなさったの?」

「エマ……実は相談があるんだ」


 7歳の娘・エマの帰宅を視認すると、彼は立ち上がって真実を話すことにした。


推理の依頼が、最近全く来ていない。


 それが自分を悩ませている、最大の原因だと娘に告げる。


「このままじゃお前に食べさせてあげるパンも買えなくなるんだ」


 しかし、本当に謎だ。自分は悪行をしたわけでも、変な噂が立てられたわけでもない。

 それなのに、なぜ仕事が来ないのだろうか……


 また俯きかけたクローキ博士は、エマに向けて真剣に尋ねる。


「なぁエマよ、パパの何がいけないと思う?」

「うーん。推理はお上手だし……一番の原因は」


 エマは10秒も考えず、はっきりとした口調でこう答えた。



「そのクローキ博士っていう芸能人っぽいペンネームのせいじゃない? 本名でお仕事した方が、信頼を得やすいと思うのだけど」



 クローキ博士、改め黒木茂隆くろき しげたか。ロンドンの街を愛するものの貯金の関係上、地元・埼玉に住む中年探偵。

 せっかくの推理の才能は娘・絵麻エマの言う通り、日本に馴染めのないペンネームのせいでなかなか認められていなかった。

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