第五話 アメ

 夜風の寒さに慣れて、やっと微睡が、睡魔の毛布をかけようとした矢先だった。


「フォ―ス! フォ―スってば!」


 声が眠りを許さない。


 この声はロビンではない。俺は、瞼を擦り、中央の床にある梯子に通じる鉄格子を覗き込む。


 真っ暗だが、この少女の声、華奢な足音。俺と同じ六本指の足音! 俺と同じ出稼ぎの潜伏人モグラニアンだ! 


「バミカか! バミカだな!」


「そうだよ。まったく、フォ―スってば何やってるの? あんた、大変なことになってるよ」


「え?」


「アズホ―さんが、族長に頼み込んで、刑の執行を延ばしてくれてるけど、あんた達このままだと」


「このままだと?」


「死刑だってさ」


「ええ!」


「ソンナ! フォ―、サン! カワイソウ!」


「ロビンお前もだよ!」


「エ! ソウナノ!」


「そうなの」


 バミカも潜伏人モグラニアンだから、暗闇でも、ロビンの異質さに気付いたのだろう。ロビンに声を掛ける。


「あなたが清流人スイマ―の武器のロビンさん?」


「チガイマ! ワタシ! オモチャノロビンデ!」


「バミカ、ロビンは俺を助けてくれたんだよ。いい奴なんだ」


「ご、ごめんなさい。ロビンさん。私はバミカよ。よろしくね」


「ハイ! ヨロシク! バ、カサン!」


「お前はも駄目なのか! 勘弁してくれ!」


「いいわよ、言われ慣れてるから仕事場で。私、慣れて、慣れ……うっ」


 涙を零し嗚咽を始めるバミカ。バミカだけでなく俺達潜伏人モグラニアンの出稼ぎ者は、地上人の不満の吐け口に利用されるのだ。


 それでも、潜伏人モグラニアンが地中の中だけで暮らしていくには、食べ物も物資も全て、足りないから、出稼ぎ労働をするしかないのだ。


 アズホ―親方のような人格者もいるが、そんなの稀だ。



「ゴメンナサイ! ゴメンナサイ! バ、カサン! ワタシ! ワルイ! コレアゲル! ユルシテ!」


 ロビンは、よほど焦ってるのか目だけでなく、体中を様々な色で光らせ、突如、手から顔の大きさくらいの丸い球をバミカに差し出した。


 が、大きすぎて、鉄格子を抜けられない!


「ア! ワタセナイ!」


「ふふ、大丈夫よ」


 バミカは懐から鍵を取り出し、開錠して中に入ってきた。


「馬鹿! お前! そんな事したら」


「いいんだよ、これで。いいの」


「え?」


 丸みを帯びたゴ―グルを外し俺を見つめるバミカ、その涙が煌めくつぶらな瞳を見つめ返す俺。


 その間に、四角いロビンが! おい!

 

「バ、カサン! コレ! コレ!」


「なにこれ?」


!」


「あめ? 空から降る神話のあれ?」


「チガウ! ソレ! ! コレ! !」


「なんか、分からないけどありがと。大事にするね!」


 涙をふき、笑いかけるバミカ。


 ロビンは頭を回し出した。


「チガウ! ソレ! ナメル! タベルモノ!」


 バミカは、一瞬戸惑いを見せる。ええ、あんな族長達が身に着ける宝石みたいなのを舐めるのか。


 ロビンは黙って、バミカを見つめる。


 バミカは鼻を鳴らす。


「あ、なんか、不思議な落ち着くにおい」


 俺も鼻を鳴らす。本当だ、何の香りだろう? 


 舌を球体につけるバミカ。


「ひゃ!」


「バミカ! 大丈夫か?」


「頬っぺたが跳ねあがったの! すごいわ、! おいしい! 元気が出るおいしさよ」


「ヨカッタ! ヨカッタ! バ、カサン! ゲンキ!」


 俺の腹が空腹を訴える……


 そういえば、昨日から何も口にしてない。


 バミカはを舐めるのを止めて、こちらをの反対側から、おずおずと覗き込む。


「ねぇ、フォース、一緒に食べよ?」


「え、いいよ、それは、お前のだろう。折角ロビンが用意したんだから」


「フォー、サンモナメテ! アレ! サイゴノイッコ!」


 差し出したバミカの手に、俺の手を重ねて一緒に『アメ』を持つ。


 暖かい。

「ねぇ、食べなよ。フォース」


「うん、いただきます」


 舌をに付ける。口にしたことのない不思議な味に、頬っぺたが上がる。


 ああ、これが、! なんて、芳醇で暖かいんだ。なんて――――――


 涙が零れる。


 反対側のバミカと手を重ね、暖かい体温と、の不思議な美味しさが、夜の闇を彼方に追いやり、俺の心に明日の希望を降らしてくれた……

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