DAY3
『でっきーに言いたいことはもう残ってないかな。そうだなあ、くれぐれも体調には気を付けて生きて行ってくれたらいいかな。徹夜とか罪悪感パーティーとかはほどほどに、ちゃんと後回しせずに仕事にも取り組んでさ、史上最高齢とか目指しちゃってよ。いくみんはねえ、いつまでも面白さを追求し続けてくれると嬉しいな。自分でどう思っていたのかわからないけど、いくみんのトーク、私はめっちゃ好きだったよ。さのっちは言うことないなあ。とっても楽しかった。人に気を使いすぎないで、自分の好きにまっすぐ向き合ってくれるといいな』
満足したように言い切った。カーテンの向こうに隠れているその姿を僕は直視することはできないけど、何となくわかる。もう言いたいことが尽きたのだろうと、そう思ってペンを丁寧に置こうとして、まだ名残惜しむように言葉が続いた。
『結びに、にしようかな。あんまりいっぱい書いてもつまんないしね。私はとっても楽しい、いい人生を送れました。他の人よりもちょっと、いやけっこー短く終わっちゃったのは悔しいし、もっとしたいこと行きたい場所があったけれど、まあそれは言ってもしょうがないことなので何にも言いません。それじゃ最後に、ありがとね』
最後にと言い切られたので僕はペンを置く。書き終わった便箋を見ると、当初に予定していた量の半分程度しか書いていなかったけれど、こういうものってそんなことばっかりだろう。読書感想文から始まるものだけど、だいたい所定の量書けなくて苦しむもんなんだ。オーバーしちゃって削らないと、なんてのは一握りの人間だけだ。
作業が終わった僕はその病室から去ろうと立ち上がった。最後まで姿を見ることはできなかったけれど、それでいいのだろうと僕は思っている。
「躑躅くん、だったっけ」
――――と思っていた時、かすれ声でそう呼び止められた。
「ああ、そう。あってるよ」
冷静に冷ややかに。僕の中にどんな感情が灯っているのか知られないように答える。
「もし暇ならさ、これからも会いに来てよ」
「……僕が? なんでさ。もう遺書は書いたんだから、僕が来る必要なんて」
ないだろうとまでは断言できなかった。それを言う必要は無いと思ったから……というのは自分の正当化だ。もっと簡単に、僕はそこまで言い切る勇気を持てなかったんだ。
「だって、君も私を知ってるんでしょう?」
「っ――――」
何も言えない。言うべき言葉の下書きのようなものは喉奥から口先までせり上がってきたけど、その中のどれも正解ではないという確信だけは自分の中に確固とした形で出てきてしまって、何も言えなくなってしまった。
「――――なんてね、冗談。もう約束は終わったからね、それじゃバイバイ」
その沈黙をどう解釈したのか、そう彼女は言って僕を突き放すように送り出す。少し強い言葉の勢いに背中を押されて部屋を出た僕は、二度とそこに来ないだろうという予感を抱きながら、別れを告げるために閉じたドアの向こうから頭を下げた。
その日の晩に彼女は旅立った。
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