第2話 王道ヒロイン、壊れる
孤立といっても、別にイジめられた訳じゃない。集団で無視された訳でもない。
今まで話していた男子が俺から興味がなくなり、藤宮も俺に話しかけなくなった。それだけのことだ。
俺自身、そういう状況を全く想定していなかった訳じゃないから、『ああやっぱり』って感じで結構すんなり受け入れてしまった。
俺という人間に、特別魅力がある訳じゃない。勉強は人に教えられるようなレベルではないし、笑いを取れるようなトークもできない。面白い動画やゲームを紹介できるほど流行に敏感でもない。
今までクラス内に友達っぽい奴らがいたのは、藤宮と親しいと思われていたからなんだろう。
ま、孤立はあくまで教室限定。部活に行けば普通に小学生時代からの友達がいるし話相手には事欠かない。ソフトテニスなんて興味もなかったしダチに誘われた以外の理由はなかったけど、やっておいて良かった。
そのソフトテニスも、最後の大会で県大会三位止まり。相棒の前衛のスマッシュがラインの僅かに外で弾んだ瞬間、俺が二年以上愛用していた灰色のラケットは役目を終えた。
最後すら自分の手で決められない。そういう星の下に生まれたのかもしれない。
教室内の孤立が大して苦痛じゃなかったのは中三だったからってのも大きい。何しろ部活を引退したらすぐ受験モードに突入。夏が過ぎる頃にはクラス内でのバカ話も一気に減っていった。
おかげで勉強に集中できたぜ――――なんて負け惜しみを言うつもりはないけど、無事第一志望の高校に合格。自宅から通えるエリアの中では一番高い偏差値の公立高校だったから、親は大層喜んだ。
受験の疲れを長めの春休みで癒やし、高校生活スタート。
部活の仲間の内、一人だけ同じ高校に通うことになったから交友関係が完全にリセットされた訳じゃない。ゼロとイチでは全然違うから正直助かる。
まあ、同じクラスにはなれなかったんだけどね。それは仕方ない。
その代わり……って訳じゃないけど、藤宮陽葵が同じクラスになった。
俺と同じ高校を受験していたらしい。それは入学式当日、教室の前の掲示で名前を見て初めて知った。
彼女は俺の隣の席だった。
黒髪ロングがアッシュグレーのショートになっていた。
大きくて綺麗な瞳がドブのような目になっていた。
笑顔なんて一切なく、雰囲気は完全にダウナー系。見えない部分にタトゥーが入っていてもへそピアスしていても舌が二つに割れていても全く違和感ない。
「あ、あの……藤宮さん。この学校は髪を染めちゃダメなんだけど……」
「若白髪です」
「あっ……すみません。地毛なら全然問題ありませんよね。先生初日からやっちゃったなー……」
一瞬でクラスの空気が凍り付いた。そして今年初めてクラスを受け持つことになった担任のやる気に満ちていた顔も冬の太陽くらい一気に沈みきった。
うん。名前と媚びてない所だけは一致してるね。でもそれ以外は別人だね。
……どうしましょう。
違うよな? これ俺の所為じゃないよな? 幾らなんでも俺がやんわり拒絶したのを男子から聞いてやさぐれた訳じゃないよな……?
いや怖いって! この変貌が俺の所為だったらシャレになんねーって! 藤宮ハンパないって!
っていうか、俺に一度も目を向けないよな。それが怖いんだよ……
わかってんだろうな?
原因はオメーだよ。
オメー如きが私を振ったみたいな感じ出した所為でプライドも心もズタズタになって闇堕ちしたんだよ。
こっちを一切見ようともしない藤宮の横顔がそう伝えてきているようで落ち着かない。
けど、これってどうしようもないよな……だって俺の方から『ごめん。俺がそれとなく拒絶したばっかりにそんなふうになっちゃったんだね』とか言えるか? 言える訳ねーだろ!
違ってたら恥ずかしいとかそういう問題じゃない。これはもう絶対聞いちゃダメなやつだ。つーか俺から話しかけるのも無理。向こうから何かしらの発信があってようやく動ける。それしか正解はない。
なのに――――入学から何日経っても藤宮は俺に話しかけてはこなかった。
一学期が始まり席順も変わって隣じゃなくなった後も、ちょくちょく目で追ってみたけど変化はない。というか変化したまま。
あの髪、本当に染めてないのか? あとカラコン入ってるよね? 注意されないの不思議なんだけど……
「ねー、その髪って染めてるよね? なんでその色?」
おっ! 勇気あるクラスメートが話しかけたぞ。その子もギャル入ってるし、仲間意識があるのかもしれない。
さあ藤宮、どう答える?
「消えて」
……えぇぇ? 嘘でしょ?
「は? 今なんつった?」
「消えて。邪魔。二度と視界に入らないで」
「……何こいつ。ヤバ過ぎでしょ」
何あいつ。ヤバ過ぎでしょ。
いやいやいやいや! おかしいおかしいおかしいおかしい! 藤宮さん貴女そんな子じゃなかったですよね!?
いつもクラスメートに囲まれる人気者だったし、『髪キレー。どう手入れしてんの?』って聞かれたら『ありがとー。でも特別なことはしてないんだよね。ちょっと保湿ケア頑張ってるだけ』みたいな感じで穏便に答えてましたよね……?
これは……さすがに……マズいのでは…………
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