第2話 突然のオフ会
魔王城の最深部。魔王の自室兼ゲーム部屋に、リリィの声が響いていた。
「くひひひひ。諸君、今日もスパチャ感謝する」
天蓋が垂れるフカフカのベッドを背景に、ゲーミングチェアで笑うリリィ。目の前には大きなモニター。人間の国から取り寄せた最新ゲーム『魔王クエスト⭐︎DX』の画面の脇に、視聴者のコメントが流れていく。
(今日は勇者1010のやつ観てないのか? 珍しいな)
いつも赤スパを投げてくれる古参登録者が頭によぎる。名前からしてイタい視聴者だが、チャンネル開設から応援してくれる大事なファンだ。
「おっと、魔物が集まってきたな。……ほいっ。即死コンボから青キャン、トドメのエターナルボンバーっと」
派手なエフェクトと共に消え去る雑魚的。猶予フレーム2のコンボもお手のもの。魔王の動体視力は伊達じゃない。
『すげー。さっすがリーリ様』『人間じゃねえ。AI並みだろ』『強すぎて薬草生えたw』
賞賛コメントが流れる。気分が良い。赤スパも飛び交い、小遣いが増えていく。五〇万いる登録者。誰もリリィの正体に気付いていない、多分。
(くひっ。これで新しいグラボ買おっと。人間チョロ)
ニヤニヤが止まらない。サブモニターの自分のアバターもニヤニヤしている。コメントがさらに盛り上がる。
『出た。リーリ様のメスガキスマイル』『ご馳走様です』『切り抜き部隊、分かってるな?』
やっぱりチョロい。もう勇者を追い返すの辞めてこっちで生活したい。あっちの業務は危険手当付かないし。
ふと思い返してボーッとする。もう十年以上前に現れた勇者。あの暑苦しいツラを思い出す。
***
『――お前が魔王か。お前んとこの魔族が人間を襲った。成敗する!』
『バナム中立国の件だろ? 酔った人間たちが魔族の子供を虐めたって聞いた。むしろ謝れよ』
『問答無用だあああ!』
人の話を聞かない男。殺すのも面倒で追い返したら、粘着されるようになった。こっちは争う気なんてないのに。最初はめちゃくちゃ弱かった。
『――や、やるな、魔王。けど今から予定がある。また来るぜ』
気まぐれで始めたゲーム配信。時を同じくして勇者がおかしくなった。配信予定に被らないように退散する変人。都合が良いから見逃し続けた。
最初の頃より成長し、最近は勇者に恥じない強さになってきた。
***
(……今日のあいつ、ビックリしてたな。てか顔見られた。人間にバラしたら殺そ)
静かに決意。万が一リーリだとバレたら炎上しかねない。まあ勇者がゲーム配信なんて観てるはずないが。
「よーし、今日はこれくらいにしとくかな。次回は隠しクエストをクリアしてく予定だ」
ゲームを一区切り。セーブをしてカメラに向き直る。別れの挨拶は欠かせない。
「では皆の者! 次は明日の昼頃。絶対観るのだぞ?」
営業スマイルでチェキポーズ。そしてお決まりのあのセリフ。
「バイリー!」
『『『バイリー!』』』
溢れ返るコメント。息の合った視聴者たち。マウスを動かして配信終了。今日もたくさん稼いだ。
ベッドにゴロンと寝転がる。かれこれ三時間ぶっ通しで配信していた。腹が減って死にそうだ。
「おーい、ミアいるか? 腹減ったー」
黒鉄の扉に声を投げる。四天王のサキュバスを呼ぶが返事はない。
「……忘れてた。今日は土曜。四天王は部屋で好きに過ごしてるか」
まだ慣れない。先週から始まった週休二日制。魔族労働協会に決められたら、さすがのリリィでも逆らえない。自分にとってもプラスだからなおさらに。
「仕方ない。食糧庫漁るか……よっと」
軽やかに立ち上がる。重たい扉を開け、青いランプが照らす薄暗い廊下を進む。
「あ、魔王様こんばんわっす」
「うむ。お前も早く寝ろよ? もう十時だぞ?」
「はいっす!」
歩きスマホしている魔族に小言。家臣の健康管理も魔王の務め。無駄に広くて長い廊下をさらに進む。目的の食糧庫が見えてきた。扉に手をかけ、ガチャリと開く。
「ん? おや、リリィ様。こんな時間に夜食ですか?」
「うげ、モルトか。こんなとこで何してたんだ? 今日は休みのはずだろ?」
そこにはあまり見たくない顔……というか灰色のローブを着た骸骨が立っていた。経理を任せている四天王、アンデッド魔法使いのモルトだ。
「連れないご挨拶ですね。見ての通り在庫の確認です。最近、夜な夜なネズミが忍び込んでいるようでして。……あ、もちろん事前に残業申請してありますよ」
「ほ、ほう? けしからん奴がいるもんだな」
「まったくです」
視線が痛い。めちゃくちゃ見られてる。口笛を吹いて誤魔化す。
「ち、ちなみに私は見回り中だ。いつ勇者が忍び込むか分からんからな」
「目が泳いでますよ?」
ギクッ。顔を逸らす。壁に埋め込んだ巨大冷蔵庫を指差し、大きく頷く。
「異常なし、ヨシ!」
「リリィ様の態度が異常ですが」
無視。諦めて倉庫をあとにする。こうなったら人間の街まで飛んで行こう。コンビニかファミレスならまだやってるだろう。
「……はぁ……リリィ様、これをどうぞ」
「え?」
モルトのため息。振り返ると、骨の手がライ麦パンを差し出してきた。腹がグゥゥと鳴る。
「他の者には黙っておきます。これからは営業時間内に食堂で食べてくださいね?」
「さっすがモルト! さすモル!」
パシッと奪い取る。すかさず魔力を手に集中。闇の炎でパンを焼く。
「では、おやすみなさい、リリィ様」
「うむ。おやすみ、モルト」
ご機嫌で別れを告げる。パンを頬張りながら廊下を戻る。再び魔王の部屋へ。
(……あ、忘れてた)
扉の前で立ち止まる。スマホを取り出し、メールを開く。
「魔石回線の支払い今日までか……こればかりは家臣に任せられんな……」
ゲーム配信用の回線代金。人間はおろか、魔族にも配信のことは話してない。
周りをキョロキョロ。誰もいない。今しかない。
「転送ゲート、オープン」
足元に魔法陣を展開。紫の光がリリィを包む。最寄りの人間の国、バナム中立国の市街地に繋げる。
「【ワープ】開始」
視界が光に包まれる。リリィの体が薄れ、フワフワした感覚に襲われる。
ボシュッ。
転送。フワフワから地面に着地。目を開けると、目の前には通い慣れたコンビニ。オレンジ色の魔石灯が夜道を照らしている。
「よし、さっさと支払い済ますか。ついでに甘い物でも買おっと」
「っしゃせー……」
自動ドアをくぐり、スイーツ売り場に直行。グレーのスウェットを着た客がチラリと見てくる。気付かないフリ。新作のベリーシュークリームを手に取る。ヨダレが垂れそうになる。
「くひひ。やっぱ配信のあとはこれに限る」
レジに置く。ピッと読み取る店員にスマホを見せる。回線支払いを済ませて完璧魔王。ルンルン気分で店を出る。
そしてもう一度転送魔法を発動しようとしたリリィは――。
「……あ、あの……もしかして、魔王?」
「……は? ……げっ!」
スウェット姿の見知った人間。勇者セントに声をかけられた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます