第6話:修復士の魔法使い

「何だこれは……初めて見る魔石じゃの」


 よぼよぼで、昨日のご飯も忘れてそうなお爺さんが、デカい虫メガネで魔石を調べている。

 正しくは、真っ黒こげになった魔力の結晶体だ。

 あれから”リス”は驚くほど出てきた。

 ピピピと鳴いていて可愛かったが、生きる為に仕方なく魔法を放った。

 一度だけ後ろから噛みつかれそうになったが、なんと今まで副作用デメリットにしか思っていなかった、魔力に敏感なおかげで助かった。

 背中側からチクチクし、それで気づいたのだ。

 といっても、リスは猫ぐらいの大きさなので、ちょっと痛いくらいだろうが、それでも無傷なのは嬉しい。


「どう……ですかね?」

「うーむ、うーむ」


 このお爺さん、いや、このお店大丈夫だろうか。

 初めは、冒険者ギルドの横にある買取屋に向かった。

 しかし、討伐証明書、要は冒険者を通じて正式な書類を提出しないことには買い取れないと言われた。

 今すぐ金が必要だった。どうしようかと困っていたら、何でも買い取りますという、小さな店を見つけて入ったのだ。


 俺は文献に書いていた以外の知識はないので、この魔石が凄いのかどうかはわからない。

 昔と今では魔物も違うみたいだし、相場なんてもっとわからない。

 店内は驚くほど狭い。入口も一人がようやく入れる程度だし、中には商品なのか旅行のお土産なのか、よくわからない物がたくさんある。

 ただ、ほんの少しだけでも金になればいい。宿泊費を賄えて、それで飯さえ食えれば。

 それからコツコツお金を貯めて文献の回収依頼をすれば、また同じ仕事に戻れるだろう。

 

 これからは、たった一人で生きていくんだ。


「……真っ黒焦げじゃのぅ」

「あ、やっぱりそうですか……」


 ある意味で予想通りだが、火力が強すぎたのだろう。

 もう少し弱くするか? いやでも魔物を倒せなかったら本末転倒だしな。


「おそらくこの魔石はどこも買い取ってくれんじゃろうな」

「そう、ですか……」

「しかし、わしはこの道のプロじゃ。この結晶の欠片が、凄まじい魔力が秘めていることがわかる。――お主、とてつもない魔物を倒したじゃろう?」

「……え?」


 お爺さんはニヤリと笑い、俺にウィンクした。


 ――勘違いしてるー!!!!


 めちゃくちゃ小さくて弱そうな魔物を倒しただけなんですけどー!?

 リスに似てて、ピピピって鳴いて、ちょっとだけ素早いくらいの!?


 でも……正直に言えばお爺さんはショックを受けるだろう。

 この道のプロって言うくらいだし、腕に自信があるのかもしれない。


「あ、あの失礼ですが、お爺さんは買い取り屋歴は結構長いんですか?」

「ふむ、何を隠そう、魔導終焉戦争マギ・アポカリプス時代からじゃ。もう、90年以上か、あの戦争は、本当に凄まじかったのう……」


 絶対ボケてるな。

 お爺さんには申し訳ないが、このまま買い取ってほしい。

 でも、嘘はつきたくない。


 でも、生き延びなきゃいけない。


 心苦しい。


 す、すまない。


 これも、お爺さんのプライドを傷つけないためだ。


「た、確かに、つ、強い魔物だった、かなー?」


 俺は、人生で初めて嘘をついてしまった。

 お爺さんごめんなさい。お金を頂いても、必ず、文献を修復して返します。

 どうか、許してください。


「ふむ、やっぱりのぅ。討伐方法は――と聞きたいところじゃが、そんな野暮なことはせん。ただあいにく手持ちがなくてのぅ。如何せん、大手買取屋ばかりに客がいくもんでな……」


 するとお爺さんはチーンと何やら鉄の塊からお金を取り出してくれた。

 それは金貨!?


「え、えええ、えええ!?」

「少なく悪いが、ただの手付金じゃ。その代わり、ちゃんとこの魔石を欲しがる人を探しておくぞ」

「ひぇ、あっはあぁ……」


 お爺さんの善意に甘えてしまっていいのだろうか。

 欲しがる人なんて一生現れないだろうし、ただ金貨を奪う人になってしまう。


「足りぬか?」

「え、いやそうじゃないですけど……」

「欲のない若者じゃ、素晴らしいのぅ」


 ぐすん、違います。僕最低な人です。

 しかしここで金貨をもらわないと野たれ死んでしまう。

 預からせてもらい、大切に使わせてもらい、お金を稼ぐ為のきっかけにする。


「ありがたく、ちょうだい致します」


 俺は深々をお辞儀をする。

 するとお爺さんは、ニッコリと笑った。

 

 申し訳ないと思いつつも、これで何とか生きていける。

 もう一カ月もあればもっと強い魔物を狩ることもできるだろう。


 さらに魔法を追加してもいいかもしれない。

 

 炎魔法を複数出るように改良するか?

 一つ一つの威力を落とし、追尾術式を付与してもおもしろいだろう。


 これからまた忙しくなる。


 でも今日は、いつもよりいいご飯でも食べられるかも!


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ボルド城の客人室で、シルヴィアが兵士から連絡を受けていた。


「宿泊所をいくつか当たってみましたが、ラルフという人物はいませんでした。ただし、安価な宿は、宿泊時に名前は尋ねていないそうです。流れ者も多いのと、偽名が多いので無意味なんでしょうね」

「そうか、業務外なのに悪いな」

「いえ、シルヴィア様は私の命の恩人ですから。ただ……私が言うのもなんですが、あなたほどの方なら多くを動かせるのではないですか?」

「……いや、あまり目立つことはできないんだ。もしラルフの存在が明るみになれば、彼を欲しがる連中が出てくる。それだけじゃなく、彼を危険にさらす可能性がある。まずは、私が接触を試みたい」

「わかりました。でしたら、引き続き探しておきますよ」

「ああ、それとあの馬鹿ドルチェはどうなった 連絡が何もないが」

「それが……結構ややこしいことになってます。大きな声では言えないんですが、ご両親が、どうも神聖魔導院にご入信の方らしく……」

「……そういうことか。魔法使いに生まれたからといって、自分たちは選ばれた者だと勘違いしてる連中の二世だったとはな」


 そのとき、別の兵士が扉を勢いよく開けた。


「シルヴィア様の部屋に、ノックもなしに――」

「良い。どうした?」

「ま、魔族らしき痕跡が!」

「……なんだと? どこだ?」

「魔の森でございます! 【シンギング・スクワレル】の死体が、いくつもあったと!」

「……この国の魔法使いで火の魔法を扱える者は?」


 すると先ほどの兵士が答える。


「ドルチェ様のみです。しかし、王城から出ていません。そもそも、勝てるわけも……」

「……【シンギング・スクワレル】を倒せるほどの魔法か……不滅の魔族が新たに習得したのかもしれん。――私が行く」

「シルヴィア様、危険です! セルシオ王に兵士を動かせるように私から進言をしてみますので、どうか――」

「不滅の魔族は今までに小国を二つも壊滅させている。そんな時間はない」


 シルヴィアは兵士の言うことも聞かず、扉を開けていった。






 




 


  

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