第2話 森の中へ
「この三角のは何? というかこんなのどこから出したの?」
三人で例の赤い四面体を眺めながら、初基は投げつけてきた赤い少女に訊ねた。
「分からない……気がついたら手に持ってたし……」
「それで二人は自分の名前は分からないのに、なぜだか相手の名前だけは知ってる、と」
赤い少女は“シール”、青い少女は“ウール”。
ただのニックネームなのか、本名なのか、それすら不明。
自己紹介をしようにも、まともな情報を持っているのは初基だけだった。
「訳の分からない状況……無から出てくる謎物質……記憶喪失の美少女……。
ここまで条件が揃えば、俺でも分かるぞ。これは異世界転移ってやつか……?」
「え、なにそれ?」
「……」
二人の反応はイマイチだったが、初基の中では確信に近かった。
そこで、それまでずっと状況を観察していた青い髪の少女――ウールが口を開く。
「もう考えても仕方ないわね……。とりあえず、少し遠くまで探索してみない?
日が暮れる前に何か手掛かりを見つけないと困ると思うの」
「確かに、暗くなったら動けなくなるな。ここが異世界かどうかはとりあえず保留で……」
「それはいいけどウール、こいつ連れて行くの?」
「この森に何がいるか分かりませんもの。囮くらいにはなるでしょう」
(……今“囮”って言ったよな?)
何か物騒なことが聞こえた気がするが、聞かなかったことにした。
◆
三人は道なき道を進んだ。
体感で一時間ほど歩いたが、どこまで行っても森、森、森。
出口の気配はまるでない。
「本格的に遭難だな……。って二人とも大丈夫?」
二人を見ると、うずくまり疲れ切っていた。
「すこし……休憩……」
「どうしてわたくし……こんなことを……」
「ごめん。暗くなる前にどうしてもこの森を抜けたかったからさ……。二人ともまだ小さいのにペース早かったよな?」
「私たちはもう大人だってば!」
「子供扱いは不快よ……」
口調は強いが、疲労で覇気はない。
「よし、休憩しよう」
◆
二人は疲れた顔で座り込む。
その横に初基も腰を下ろそうとした――その瞬間。
遠くから草木の擦れる音がした。
「二人とも静かに……。何か近づいてくる……」
「何かって何よ?」
音は徐々に大きくなり――
やがて草陰から、姿を現した。
それは狼のような生き物なのは間違いない。
しかし、あまりにも異質すぎるその姿に、嫌でも視線が釘付けにされる。
その生物は三つの首で三人に視線を合わせ、涎を垂らす。
「なんだよこいつは……!」
大きさこそ大型犬ほどだが、ファンタジー作品に出てくるような三つ首の狼――ケルベロス。
まさにそれが目と鼻の先にいた。
二人の少女は恐怖で腰を抜かしていた。
初基は自分でも理由が分からないまま、震える足で降ろしかけた腰を上げる。
自分一人だったら絶対に立ち上がれなかっただろう。
しかし、震えて涙を流す二人を横目に見た瞬間、体が勝手に動いた。
会ったばかりなのに――なぜだか守らなければと思った。
(ここで俺が倒れたら……こいつら、終わりだ)
あまりにも現実感のない光景なのが、逆に背中を押した理由でもあろう。
「なんで最初からこんな奴が出てくんだよ……最初はスライムがテンプレだろうがよ……!」
しかし動いた後で全身の震えが止まらず、つい泣き言が漏れる。
三つ首の狼は腰を低く構え――跳んだ。
その動作を見て思わず叫ぶ。
「お前ら逃げろ!!!」
――次の瞬間、激しい衝撃。
初基は地面に叩きつけられ、両腕に激痛が走る。
なんとか首を守ろうとして両腕で牙を防いだ代償だった。
尖った牙の食い込み――痛み――抉られるような激痛――
腕から――溢れていく――流れ出す――自分の血――生暖かい血――
――狼の荒い息――
――頭は真っ白になる。
二人は逃げることができただろうか……。
回らないはずの頭で……なぜかそれだけが浮かぶ……。
――続く――目の前の激痛――。
異世界転移といえば……何かしら能力を持ち込んだりできるもの……。
この様子からしてそんな淡い期待も……。
だが―― 突然――。
――狼は動きを止めた。
理由は分からない。
――三つの首がゆっくり、腕から口を離すと草むらの方を向く。
――何かを威嚇するように低く唸る。
そして――向きを変えると、森の奥へ走り去っていった。
――何が起きたのか分からないが……とにかく助かった……。
――少し間をおいて、震えた声がかけられる。
「おにーさん!……大丈夫!?」
「初基! 大丈夫ですか!?」
二人は逃げず、すぐ近くにいたようで恐る恐る近寄ってくる。
初基の両腕は血まみれで、シャツも赤く染まっていた。
二人が無事だと確認した瞬間――
安心のせいか、あるいは失血のせいか、意識が暗闇に沈んでいく。
薄れゆく視界の端で、草陰に“白い人影”が立っているのが見えた。
だが、それを確かめる余裕は今の彼にはなかった。
■ボードゲーム「フラクタルガールズ」TIPS2
□魔物紹介
△相似性狼(フラクタル・ウルフ)
三つ首のウルフ。
この世界では近年、狼や蛇などを中心に、かつて存在しなかった多数の首を有する魔物が大量発生している。
原因は調査中……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます