大魔王の育て方。

レウロ

第1話 物語の始まり。新生活の始まり。

とある街の高校。まだ日も高い頃。

休み時間を告げるチャイムは少し前に。生徒たちは、各々の話題で盛り上がっていた。

その中で、一人。教室の片隅で退屈を満喫している男子がいた。


彼の名前は、秋塚あきつか 成海なるみ。正真正銘のボッチだ。因みにこれは、彼が周りから虐げられているとかでは無く。単純に彼が浮いているからだと断っておこう。


彼にとって、学校は退屈でしか無い。学校にあるのは、対して興味も無い授業。それだけだからだ。苦行。正にそれであった。その日も彼は、校庭を眺めながら思っていた。


帰りたい。と。


だが、そう思ったのも束の間。

足元に浮遊感を覚える。

驚いて足元を見ると、床が消失していた。否、床だけではない。周りの壁、窓、天井。その全てが消えていた。そして、その代わりとして視界に入ってくるのは虹色のまだら模様。


その光景は、シャボン玉の中に居るかのようだ。


彼は、その異様な光景を見て、驚かなかった。それどころではなかったのだ。視界が移り変わる瞬間、彼は意識が薄れていた。

薄れゆく意識の中、彼が最後に感じたのは"期待"だった。


───と、言うのが数時間前の出来事。

今の彼が感じているのは"絶望"だった。


現在、彼は森の中に居る。

状況は最悪だった。

気が付いてからこれまでの探索で分かったことと言えば、ここが異世界であるということ。自分は現在一人だということ。持ち物を何も持っていないということ。その三つだった。


それは、即ち彼、成海が遭難しているということを表している。


だからこそ、彼は絶望していたのだ。どう仕様もないこの事実に。

彼は、茂みを抜けながら思った。なぜ自分がこんな目に遭うのだろう。と。というか、ここは何処なのか。と。

普段、教室の隅で座ってるような、彼にとってこの様な森は、かなり厳しいものがある。ずっと変わらぬ景色を見せられ続け、成海の心は折れかけていた。


───と、その時。

成海がかき分けた茂みの奥に、六歳程の少女が現れた。


少女は、成海を見るや否や、キッと睨み付け威嚇する。

だが、その威嚇の仕方には、何処か疲れの様なものが感じられた。よく見てみると、怪我をしているようだ。それに、着ている服もボロボロで、とてもまともな状態とは思えない。


それを見つけた成海は暫し逡巡した。自分の正義感は助けるべきと言っている。だが、理性は威嚇する少女に近付くのは如何なものかと問いかける。少し躊躇いながら少女に近寄った。


「大丈夫。怖くないからね。」


少女はさらに威嚇をする。だが、成海は意に返さずに近づいた。


「ちょ〜っとだけ、そこ見せてね。」


後少しで少女に触れそうな時、少女が成海に噛みつく。


「大丈夫だから!」


成海は少し、顔を顰めながら少女の怪我に手当てをする。シャツを裂き、包帯代わりに巻き付けると、成海は少女から離れた。


「ほら、これでもう大丈夫。」


成海が手当てしたところを少女は見つめた。

手当てを済ませた成海は、その場を後にしようと背を向ける。


すると、少女が服を掴んだ。

鳴海は少女の事を見る。少女は今にも泣き出しそうだった。

鳴海は悩んだ。今、彼女を放り出せば、きっと死んでしまうだろう。だが、今は、自分にも余裕が無いのだ。


だが、それは少女も同じだった。

手傷を負い、頼れる大人も居ない現状では、彼に頼る他無い。少女は必死だった。


暫く膠着状態が続いた後、成海が腰を落とした。一度、少女の話を聞くことにした。


「どうして、こんなにボロボロなの?」


成海は尋ねる。

成海の問いかけに対して、少女は首を傾げた。そして、少女が口を開いた。


「なんて言ってるの?」


これは、少女が成海の言葉を聞き取れなかった訳では無い。ただ、少女の言葉は…


「は?」


少女が口から発せられた言葉は、日本語ではなかった。

つまり、成海とは話している言葉が違ったのだ。当然、少女の言葉を成海は理解できなかった。それは、少女の方も同じだ。


二人の間に沈黙が流れる。


ふと、成海が木の葉を手に取った。

そして、少女に見せると葉っぱを指さし、言葉を発す。


「葉っぱ。」


少女はキョトンとしていたが、何かに気付いたようで、男の持っている葉を指さし、


「はっぱ!」


男の言葉を繰り返した。

そしたら、今度は男が自身を指さして、言った。


「成海。」


と。それに対し少女は自身を指差して言った。


「ミュエット。」


男は少女の方を指差して繰り返した。


「ミュエット?」


それを聞いた少女は、一瞬、遠い昔を懐かしむ。そんな目をした。

そして、男の方を指差して言った。


「ナルミ。」


と。


それから数時間。

成海とミュエットは、ちぐはぐなコミュニケーションを重ねていた。

その度に、少しずつ互いの理解を深めていく。


少女。ミュエットは元々、一国の王女であった。

平和な王国の王女であった。

決して、豊かな国とは言えなかった。それでも、幸せだった。期待をしていた。


だが、そんな日々は突然に終わった。

人間達の襲撃だ。しかし、少女の国は強かった。今までであれば、さして問題にもならなかった程には。しかし、突然現れた謎の人間達が全てを覆した。


国民を殺し、兵士を殺し、大臣を殺し。

そして、魔物の王たる少女の親も殺された。

国は跡形もなく破壊された。城も。広場も。家さえも。


その話を聞いて、成海は思った。

今、彼女はどんな気持ちで僕と接しているのだろうと。

身近な人を、居場所を奪った人間。もちろん、成海とは違う人物だが、彼女にとってその事実はどれ程重要なのだろうか。


成海は、彼女にどんな対応をすれば良いのか分からなかった。


二人の間を沈黙が満たす。


それから数刻。

沈黙を破ったのは、ミュエットの言葉でも成海の言葉でもない。腹の音だった。


─グウウウウ。


成海がミュエットの方を見る。

すると、ミュエットは恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「えっと、ご飯。取りに行こうか。」


ミュエットは頷いた。

そして、思った。この人なら自分の決意を話してもいいかもしれないと。「魔物も人間も幸せになれる国を創る」という決意を。

そしていつか、アイツに教えてやるんだ。「人間も魔物も友達になれる」ということを。


これが、人間の男と魔族の娘の出会いであった。

そして、この時はまだ誰も知らなかった。

後に彼女が、空前絶後の魔王になるということ言うことを。



─1年後。


「ねえ、成海〜?」


「どうした?」


「お腹すいた〜。」


「はい。はい。分かりましたよお姫様。」


そう言って成海は、二つの骨で出来た皿に料理を盛り付け、木製のテーブルに置いた。そして、自分も椅子に腰掛けて言う。


「それじゃあ、手を合わせて─。」


成海が手を合わせる。ミュエットも同じ様にする。

そして、二人同時に言う。


「「いただきます!」」


と。




──とある街の一角。


「あの〜。少々お尋ねしたいのですが。」


「はい?」


「この辺りで、僕と同じぐらいで…こんな服を着た人を見ませんでしたか?」


そう言って、男は通行人に絵を見せる。

その絵に描かれていたのは、カッターシャツにネクタイ、ブレザーを上から着たような服装。つまりは、制服だ。


「いえ、見たことないです。」


「そうですか…すいません、引き留めてしまって、ありがとうございました。」


男は通行人を見届けると、溜息を吐く。

男の名前は、葉々屋 直人はばや なおと。高校生、いや"元"高校生だ。今は─。


「はぁ。マジで何処だよ。」


直人が愚痴を零すと、目の前に女が現れた。


「そんな事言ったって、しょうが無いじゃん。」

「転移トラブルなんて、防ぎようが無いんだから。」


そう言ったのは、大河 那妻おおかわ なつ。彼の元クラスメート。彼女も─。


「まあ、わかるぜ…。けど、それとこれとは別だろ。アイツらが見つからなかったら、どの道、帰れねぇんだからよ!」


「まあ、まだ、帰る手段も無いんだけどね。」


「満希からは何も?」


「うん。まだ何も。」


直人の言う人物。満希。三谷 満希みつたに みつき。彼女も同じく──。


那妻の言葉に、直人はもう一度溜息を吐いた。


「はぁ。ま、魔王討伐・・・・より余裕か。」


そう彼らが、彼らこそが、人類史に残る偉業。

魔王討伐を達成した勇者達、勇者パーティーなのだ。

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