第40話 血だまり 相川芳生
同僚が、奥さんから聞いてきた話です。
奥さんがコミュニティーセンターの体育館でママさんバレーをやっていて、そこでの話だそうです。
今、ママさんバレーって言い方しないのかね。まあ、平日の昼間にやってるサークル活動で週二回って話だから、専業主婦じゃなきゃなかなか無理ですよねえ。結構強いグループで、土日に練習試合とか大会とかで出かけることもあるって言っていましたね。その打上げだのお茶会だのでいないことも多いという話で、大丈夫かこの夫婦? て思うこともあったんだけど。同僚は釣りキチでね。週末ごとにどっかで釣り糸垂らして釣れたら自分で調理する条件で自由にさせてもらっているって言っていたから、それはそれでいい関係なんだろうねえ。
そこで、本当は平日昼間の週二なんだけど、大会が近くて体育館の予約が開いている時には、借りて特訓していたんだそうです。
そこは、本館のコミュニティーセンターに事務室や文化系のサークルが活動していて、体育館には渡り廊下で行く構造なのに、更衣室は本館側にあるんだそうです。だから、バレーの時はまず本館に行って、事務室で受付して体育館の鍵を借りて、事務室の隣りの更衣室で着替えてから、物置とかあまり人が出入りしない関係者用の部屋沿いの廊下を通ってから渡り廊下を渡って体育館に行く。
渡り廊下の本館側の扉は、内鍵を開けて出て、帰りに内鍵をかけて出るルール。
昼でも夜でも流れは同じだけど、節電ってことで、昼間は体育館以外は照明なしが原則なんだそうです。でも、夜は点けてもいい。消し忘れたりすると次回注意されるので、それは気を付けていたんだって話でした。
ある年の夏に、やっぱり大会で自主練することになったそうで、夕飯後の七時に集まって九時に解散することになった。事務の人は五時頃入れ替わって、夜番の人は一人だけ。それで、鍵をもらって更衣室で着替えて、だいたいみんな同じ時間に来るから、更衣室でみんながそろってから、廊下に出た。
廊下は節電で消灯されているので、事務室と更衣室の間にあるスイッチを押す。スイッチはあと、渡り廊下の出入口にあって、どっちで押しても点くか消えるかって仕組みだったそうです。で、渡り廊下へ向かうのに、事務室と更衣室の間のスイッチを入れた。
渡り廊下まではまっすぐ。間に学校の教室三つ分くらいの部屋がある脇を通るわけだけど、ママさん方、スイッチ入れて、少しして、悲鳴上げまくった。
渡り廊下の出入口前に、人がぶら下がっていたんです。
受付の夜番さんが出てきて、ママさんも二~三人ついてちょっと近くまで行った。そのママさんのうちの一人が、同僚の奥さんね。
ぶら下がっていたのは、昼間事務室にいる若い女の人だった。渡り廊下の重い扉の上に狭い窓があって、その窓からロープが伸ばされて、首を吊っていた。ロープが細くて食い込んだらしく、首から下が血まみれになって、床に血だまりもできていたんだそうですよ。
まあ、その日はもう、バレーどころじゃないですね。
春に来たばかりで、手際が悪いって、同じ事務の人にいろいろ言われているのは目撃していたらしいですよ、ママさんたちも。まあ、今でいうパワハラですよね。
細い紐を幾重にも首に巻いて、利用者が好きに要望を書けるように置いていた落書き帳の台を踏み台にしたらしい。扉の上の引き違い窓を全開にして、ロープの端を外の渡り廊下の柵に括り付けてあったらしく、後で柵が変形して傷ついているのを確認したって話だった。自殺ってことになったらしいですよ。
一週間くらいは通路を使用禁止にして、外回りで体育館に行くようにされたけど、すぐに通行できるようになったそうです。
それでも、ママさんたちは目撃者なんで、扉を開けて通るときは、ぶら下がっていた真ん中をさけるようにして通っていたって話です。練習再開日にはお花も
かなり記憶が薄まってきた秋の終わりごろ、また大会があるために夜間練習をすることになった。受付して着替えて、明かりを付けて渡り廊下を通って体育館に行って、さんざん練習して。練習している間に大雨になって、帰ろうとしたら渡り廊下が吹き込んだ雨でびしょびしょになっていたんだそうです。柵と屋根はあっても、完全に囲ってあるわけじゃないので、そういうこともあるんだそうです。
それで、みんなで走って渡り廊下を抜けて、通路に戻った。そういう時には通路の内側にマットや雑巾が敷かれているんだけれど、途中で降ったせいか、それはなかったんだそうです。
大雨は続いていたので、みんなでわあわあと通路に戻って、みんなが扉を抜けたところに集まった。マットがなくて廊下がびしょびしょになったうえに、明かりが消されてたからね。
夜番さんが省エネで切っちゃったんだろう、ひどいよね、と言い合いながら、渡り廊下脇にあった照明のスイッチを押したら。
周辺が、赤い足跡だらけ。
赤黒い液体が扉前に溜まって、そこに雨水が混じって踏み荒らしたみたいに。
足跡は、自分たちのものです。
また、みんなで悲鳴を上げることになったんだそうです。
で、夜番さんが廊下に出てきた。
みんなでパニックになりながら、『なんで明かり消すのよ』とか、『なにこれ血なの』とか騒いで。
よくわからない夜番さんは、事務室脇のスイッチを押して。まあ、真っ暗。またぎゃーって悲鳴上げられて、びっくりしてまたスイッチを押して。
その間にママさんたち、夜番さんの方に走って来ちゃってね。いろいろ訴えながら振り返ったら、赤い足跡は消えていて、ただ、ママさんたちがびしょびしょに足跡を付けまくった、水に濡れた足跡だけが廊下にあった。
結局、渡り廊下の上の窓が開いていて雨が吹き込んだらしくてね。その周辺は夜番さんが拭いてくれたけど、通路中に被害を広げた分は、ママさんたちでモップ掛けをしたそうです。
以降、雨の予報がある日には夜練習はしないことになったそうです。
それでも、ほかにもサークルはあるので。
同様に血だまりを踏んだとか、ぶらさがっている影を見たという話は、たまに聞くということでした。
その人、残っちゃったんでしょうか? ・・・・・・ね。
語り終えると、語り部は一本の蝋燭の火を消した。
『百物語が終わるまで』
https://kakuyomu.jp/works/822139841307342761
の作中話は800字程度に縮小させました。よろしければ本作もお読みいただけますと幸いです。
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