第6話 社畜

仕事は、している。

いや、していた。


休みはなかった。

正確に言うと、休みという概念が会社自体になかった。

勤務時間もあってないようなもので、朝なのか夜なのか分からないまま働き、

気づけば会社にいて、気づけばまた会社にいた。

いわゆる社畜だ。


自分の事を社畜と言って上司に媚び売ってる人間もいるが、

それは本当の社畜を知らない人間の戯言だ、反吐へどが出るぜ。


それでも辞めなかった。

理由は簡単だ。


「働かないと、人間がダメになる」


祖父が言っていたからだ。


両親の遺産はどっさりあった。

正直、一生遊んで暮らせるほどではないが、

慎ましく生きる分には何の問題もない額だ。


それでも俺は働いた。

働かないと腐るから。

人間は役割がないとダメになる、と本気で思っていた。


結果どうなったか。


「……ダメになりかけた」


久しぶりに、奇跡的に、連休をもらった日。

体は動かず、頭も働かず、とりあえず何か観ようと流したのがゾンビ映画だった。


それが運の尽きだ。


社会が崩れる。

秩序が消える。

会社も上司も意味を失う。


「……あれ?」


気づいた。

ゾンビが出なくても、俺、もう壊れかけてないか?


その瞬間、何かがプツンと切れた。


俺は休み明け、社長室に行き、辞表を叩きつけた。

人間は勢いが大事だ。


なお、書いてあったのは「退部届」だった。


社長は何も言わなかった。

俺も何も言わなかった。

沈黙の中で、俺は勝った気がした。


そんなことを、今、車の中で思い出していた。


山の中。

エンジンは切ってある。

静かすぎて、自分の思考音がうるさい。


「……俺、何やってんだろうな」


社畜を辞め、ゾンビ対策を始め、拠点は未完成。

今日も車で寝泊まりだ。


だが、不思議と後悔はなかった。

あのまま働いていたら、ゾンビが来る前に俺が死んでいた気がする。


「さて……」


俺は重い腰を上げた。

物理的にも、精神的にも重い腰だ。


土台作りを始める。

地味だ。

派手さは一切ない。

技術もない。

田舎が嫌になって東京に行く曲みたいだ。


だが、土台は大事。

モビルスーツが立ったまま乗れるくらい大事。


ゾンビが来たら拠点が必要だし、

来なくても、俺がここに立つ理由になる。

俺、大地に立つ!


六畳分の地面に印をつける。

社畜時代より、よほど真剣だ。


「働かないとダメになる、か……」


逆に言うと、働き方を間違えるとダメになる…だった。

「あのクソジジイ、ちゃんと伝えろや」

それに今気が付いた俺も俺なのだがね。

まだまだ俺は坊やだからさ。


今の俺は、

誰にも怒られず、

誰にも急かされず、

ゾンビの心配だけしている。


たぶん、これが俺にとっての正常だ。


ゾンビは今日も来ない。

だが、俺は今日も備える。


社畜を卒業し、

退部届で会社を去り、

今は土台を作る男として。

敢えて言おう!バカであると!


だが、それがいい!

世界が終わって、この六畳が俺の城になるんだ。

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