第17話:疑問

「ン―まあ、上々な立ち上がりってとこですかねー」


 従妹の困惑とドン引きした顔を見送って、ゆかりは、彼女が来るまで話していた内容に話を戻した。


「おっ、評判よさげか。」


「ですね、やっぱりあの一発が大きかったらしいです。」


「穿孔キックね、あそこまで威力出たの初だったしねぇ。」


「あれなら三連キックで貫けた気もしますね。」


「たぶん行けたかな、足裏の感覚的に。」


 そういって、部屋に本来存在しないプロジェクター――天塚ががらくたからつけるパーツを使って再生した代物――が、再度、天塚のパソコン画面を映し出す。


 そこに映るのは――彼ら三人、通称『正義の味方』とそれが所属する新たなヒーロー組織の評判だ。


 俗にいうエゴサである――別段、評価を気にしない三人であっても、自分達以外の人間に評価の波が来るとなるとそれなりの行動をとる。


 ネットを少し調べれば彼らの記事やSNSの書き込みに辿り着く。世間の反応は概ね良好、まともに世界の為に戦う勇者に期待を寄せていた――内実としてその部分に疑問を抱く存在ではあっても、純粋な善意の存在としての勇者は、世界にとって希望だ。


 日本はもちろん、海外からも期待の声が届いているのがわかる。


 評判は上々、彼らを引き抜いてきた自分の評価も上がろうものだ。


 転じて、彼らがもともと所属していた会社――ヒーローアカウントはと言えば、世間の声を見てため息が出るような有様だ。


 ヒーローアカウント所属ヒーロー、負傷者数が去年の倍に。


 運営元の株は緩やかな下降傾向だ。


 直接、名指しで否定せずとも、実質は大炎上と言っていい――それでも、会社に対する非難の声が薄いのは、あそこが勇者の住処だからだ。


 設楽天京したらてんけい


 異世界から魔王を討伐して帰還した真正の勇者にして『万物の祖を騙る者』たる『築造』の妖霊より力を与えられた非戦闘系の勇者だ。


 その辺にある石ころから重機を作れるとすらうわさされるその異常能力を前に、人は手出しできない。


 勿論勇者を雇った企業への批判もあるが、彼らに責任を追及するのも酷だろう。勇者が雇えと言っているのに断れば、物理的に会社を潰される。中にいた人間ごとだ。


 残されたヒーローは勇者のハーレム要員足りえる女子か踏み台になる新人のみ、それだって、いつまで無事でいられるものか。


「一応警告したけど……あんまり聞いてもらえなかったな。」


「まあ、警告出したの首になった日でしたしねぇ、恨み節だと思われたんじゃないですか。」


「あー……時間までは読めなかったからなぁ。」


 それでも、知り合いのいくばくかは逃げられたというのだから、結構なことだ。


 勇者のやりたいことなど、おおむね想像がつく、ヒーローが四苦八苦している所に現れ魔物を討伐。


 ヒーローとの力の差に酔いしれ、自分の特異性を再確認する――典型的な、憂さ晴らし。


 そんな連中を見ている一般人から見た時、確かに、三人が所属するこのチームは異様に映るのだろう。


「そろそろ名前決めないとですねぇ。」


 思い出したようにカードを脇に置きながら扇のもとにたどり着いたゆかりはぺちぺちと膝を叩いて扇の脚をたたませて、その間に体を落とす。


「『機甲戦隊』!――なんで僕の膝の上きた?」


「『特撮戦隊』!」


「『魔女戦隊』!」


 煌く瞳で告げる三人に、苦笑交じりにゆかりは返す。


「はいはい、一般受けしない名前は結構、うちわネタだと飽きられやすいんですよ……ユニオンとかでいい気もしますけどねぇ。ちなみに、膝の上に来たのは私が移動したかったからです。」


「プリミティブとか?」


「哀れな人が付けそうな名前……っていうか、僕らが『幼稚』で『純粋』か?」


「黒土さんたちのことでは?」


「あー……」


 どことなく納得いったような声を上げつつ、さて、どんな名前にするか――と思考している三人にをしり目に胸に頭を預けるゆかりは、満足げに鼻息を漏らす。


「臭くない?」


「いえ、まったく?」


「そう……」


 困ったように眉を顰める扇は、初めて自分の前に現れた時と変わらない。


 自分と、母と、父を助けた時と何も。


「ネクサスとかは?」


「何か……恋人が悪役に乗っ取られてそうだから嫌。」


「ブレイブレンジャー!」


「探せばいそうな名前。」


「おん、俺もそう思ったわ。」


「戦隊名を考えることの難しさよ。」


「テレビ局の企画班の偉大さよ……」


 そういって遠い目をする三人を見ながら、肩を堪能したゆかりは話を切り上げる――どうせ、叔母辺りが何か考えていることだろう、こちらが慌てて悩むようなことではない。


 そもそも、今回の話の主題はこれではない。


「――ま、いいでしょう、それよりも、問題はこっちですよ。」


 そう、彼女がここにきた理由はこれではない、これはあくまでも世間話の一環でしかない、問題は――


「――なぜ、魔物どもが武器を持っていたのか。」


「そこなんだよなぁ……」


 肩から漏れたゆかりの声に、扇が応じる。


 ――そう、それが問題なのだ。


 基本、魔物とは略奪種族である。


 その性質上、彼らは加工する術を知らぬがゆえに木や石を簡素な武器にしているのが一般的だ。


 よしんば持っていても、死人からはぎ取った彼らの体躯では見合わぬ小さな金属装備を持っているぐらいだ。


 しかし、あの時出て来たオーク達は、斧や鉈のような金属を加工した武器を持っている、だ。


 これが石ならありえないとは言えない、ごくまれにそういった装備をしている個体がいることは情報共有されているぐらいだ。


 が、金属製となると――


「誰かが、連中に装備を与えた。」


「そう考えると、つじつまは合いますよね。」


 となると、面倒な点が一つ。


「誰が、そんなことをしたのか。」


 渋い顔で、扇が漏らす。


 それが、疑問なのだ。

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