百合フラグ職人の朝は早い

イチロウ

第1話 ゆうべはお楽しみでしたね♪

「ほんっとにもう、最悪なんですけどっ!」

「……それはこっちのセリフよ」


 ――王立修練院レールブルク。

 私の目の前で繰り広げられる、毎朝の光景。


「毎度毎度、私の毛布に入り込んできて……魔族のエリート様はひとりじゃお寝むもできないの~?」


 探索者希望であり、どの属性にもあてはまらない魔法を操る剣士エリス・ミレディア。


「勝手に入り込んできているのは貴女でしょう……牛飼い時代の癖で、私を抱き飼葉替わりにしないで頂戴!」


 軍属希望であり、エリスとは違う謎の力を操る魔闘士ヴィルヘルミナ・スフルーフ、通称ルミナ。


「よーし、その喧嘩買ったぁ! その無駄に露出が高い服を切り裂いて、正真正銘の痴女にしてやる!」

「貴女こそ……! その訓練校一大きなお尻をぶっ叩いて、歩けないぐらいに腫れさせてやる!」


 冒険者養成校、始まって以来のふたりの天才。

 このふたりの喧嘩を止められる者は、養成校の超特別講師と……


「ふたりとも……これ以上喧嘩したら、今日の探索実習でご飯抜き!」

「え!? い、いやー、あたしたち、仲良し! ねー、ルミナ!」

「え、ええ、私たち仲良しよ! だからアン、食事抜きはやめて頂戴!」


 神官希望であり、ふたりのルームメイトである私、アンネリー・フルスベルクぐらいだ。


「……それで、喧嘩の理由は?」

「朝起きたら、またルミナが私の毛布に入ってきてた! もう、何回目だと思ってるの!」

「こっちの台詞よ。おかげでまた、朝から不快な横顔を見ることになったわ」


 ――ゴーン……ゴーン……

 遠くから、時間を知らせる鐘の音が鳴り響く。


「原因究明はまた今度にしよう? 遅刻しちゃうから、早く準備して」

「……まあ、あたしたちが遅刻したら、ルーム長のアンにも迷惑かかるし、今回は許すか」

「……右に同じ、ね」

「ふふっ、良かった。ほら、早く着替えちゃおう」


 纏っていた毛布を取り、立ち上がる。

 少し寒いが、外気が体に当たって気持ちいい。


「……ごめんなさいエリス。訓練校一大きいお尻は、アンだったわ」

「えっ!?」

「……あたしこそごめん、ルミナ。痴女はあんたじゃなくて、アンだったわ」

「わ、私は、寝るときは全裸派なだけ! あと、お尻は最近ちょっと太ってごめんなさいねぇ!」

「べ、別に、けなしているつもりじゃないわ! 胸だって私より大きいし、たぶん養成校一! 魅力的だし、その……私は好きよ!」

「……え、本当?」

「もちろん、あたしも好き! その体形だって、本に出てくる女の人そっくりだし!」

「ふ、ふたりとも……!」

「……まあその本、村の男の子たちが隠れて読んでたエロ本だけど」

「あ、貴女、なんてことを……! たしかにそうだけど、言い方ってものがあるでしょう!」

「……もおぉ! もおおぉ~!! とにかく、ふたりとも準備! それと、あとでお説教!!」


 本来なら女神様の名のもとに、即・罰案件の超ド級セクハラだ。

 でも、私はふたりを許す。


(あの険悪なふたりが、痴話喧嘩する仲に……寝起き百合作戦順調です!)


 何故ならば、この騒動の原因を作ったのは私。

 早朝に起きて『未来の勇者』エリスと、『未来の魔王』ルミナの寝てる場所を移動させ、こうなるように仕向けた――

 


(この調子なら、経典にあった寝起きキスへの進展も……きゃ~、きゃ~~♡)


 ――『百合フラグ職人』である、この私だからだ。

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