コロッサス大戦

ジェーシー・ベガ

エピソード0:序章:世界の傷跡

蝋燭の揺れる炎と、マナ灯の淡い光が、大図書館の壁に踊る影を落としていた。


歳月に刻まれた顔を持ちながらも、声には深い叡智を宿した老人が、広い書架の間をゆっくりと歩く。


その傍らには十歳ほどの若い見習いがいて、老人の一挙手一投足を見逃すまいとついていった。これから自分は、決定的に重要な教えを授かる――そう理解しているのだ。


「太古の昔……」


老人は語り始めた。


「世界がまだ若く、諸族が比較的穏やかな平和の中で共に暮らしていた頃――闇の時代が、この世を覆った。それが、いま『祖戦争』と呼ばれる大戦の始まりじゃ。誰も予見しなかったが、人の運命を永遠に変えてしまう戦……」


老人は静かに言葉を継ぐ。


「闇の存在……いまでは悪魔と呼ばれる者たち。そして神々。彼らは、この地のすべての命を滅ぼしかねぬ争いを始めたのじゃ」


見習いは息を呑み、目を輝かせて聞き入った。


「混沌のただ中で、五つの人の家がオラクルに選ばれ、神の祝福を授けられた。アンタリウス、フェラリス、クロウ、ソブ、そしてズシャス――五つの家はそれぞれ世界の一地方を背負い、あらゆる生きとし生けるものの命を守るため、勇気と決意をもって戦った」


老人はそこで一度言葉を切り、周囲の古書に視線を落とした。


「だが、それでも破壊はあまりに大きかった。――ゆえに、さらなる“何か”が必要となったのじゃ」


老人の眼差しが、遠い時代を見据える。


「戦の頂点、その瞬間に――石、溶岩、炎、氷……そして未知の元素からなる巨なる者たちが目覚めた。人は彼らを『巨像(コロッサス)』と呼んだ。大地の守護者。あまりに古く、その力は神々と悪魔にすら比肩した」


「巨像の出現によって、戦は三つ巴となった。人、神、悪魔――互いに争うだけではない。彼らは、巨像とも戦うことになったのじゃ」


見習いは老人から目を離せない。いま語られているのは、全貌を知る者の少ない歴史――その核心だった。


「しかし……」老人は続ける。「戦は、まだ終わらなかった。巨像がいかに強大でも、神々と悪魔が支配を求めて争うのを止められはせぬ」


「その臨界点で、五人の混血の兄弟が決断した。神と悪魔の結びつきから生まれた者たち――彼らは、この争いを終わらせねばならぬと悟ったのじゃ」


「だが自分たちだけでは力が足りぬ。ゆえに彼らは、最も強き巨像たちと手を組み――天の軍勢と冥の軍勢を率いる“自らの父母”を封じる道を選んだ」


老人の声が、さらに低くなる。


「兄弟のうち二人は天を治め、二人は冥府を治めた。そして残る一人――巨像にも比する力を示した五人目は、その溢れる力がさらなる災厄を招かぬよう、巨像の一体の内部へと封じられた」


「こうして、神と悪魔が人の領域へ再び干渉することを阻む結界が築かれた。ただ一つ――均衡を保つために彼らが集うことを許された、聖なる王国を除いて、な」


老人は大きく息を吐き、締めくくるように語る。


「戦がようやく止んだ後も、残された悪魔どもは世界に散らばり、至るところで災いをもたらした」


「そして、さらに長い時を経て――古き女神エシアに仕える修道士たちが、『エッドレムの聖典』を編み上げた。その書は、悪魔やこの地に属さぬ異形を封じ、元の世界へと追放する力を持っておった」


「彼らはそれを厳重に守り、理解していたのじゃ。世界の平穏は、その護りにかかっているのだと」


老人は再び言葉を切り、語られた歴史の重みを、見習いの胸に沈めるように沈黙を置いた。


「――だが」


低い声が、静かに響く。


「時は証明した。神も悪魔も、永遠に閉じ込めてはおけぬ……あれが時代の終わりと思われたものは、より巨大な何かの始まりに過ぎなかったのかもしれん」

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