第5話 その違和感は、誰かに“植え付けられている”


「師匠」

「なんだ」

「最近、事件おかしくないですか」

「今さら?」


 事務所で、ムコが珍しく真面目な顔をしていた。

「犯人、全員“思想”持ってません?」

「……確かに」

「ペン、カード、配置、向き、順番」

「全部“意味を与えられすぎてる”」

 

俺は煙草に火をつけようとして、切れていることに気づいた。

 

 このタイミングで切れるのも、なんか嫌な予感がする。

「偶然じゃない、って言いたいのか」

「はい」

「じゃあ言ってみろ」

「誰かが、あたおかを量産してます」

 言い切りやがった。


今回の依頼:壊された「並び」


 依頼人は、三十代の女性。

 職業、会社員。


 見た目は――普通。


 ただし、開口一番こう言った。


「……“順番”が、壊されたんです」

「何の順番です?」

「シャンプー、リンス、ボディソープ」

「風呂場ですね」

「並びが、逆でした」

 ムコが反射的に言う。


「戻せばいいのでは?」

「戻しました」 「解決では?」

「でも、意味が変わった」

 俺は、静かに依頼書を閉じた。


「……続けてください」

「“教わった”並びじゃなかったんです」

「誰に?」

「……勉強会で」

 来た。


「どんな勉強会です?」

「生活改善セミナーです」

「怪しいな」

「違います!」

 女性は少し怒った。


「“整えることで人生は上向く”って」

「よく聞くな」

「“順番を正せば、思考が正しくなる”って」


 ムコが俺を見る。

 俺もムコを見る。

 聞いたことがある。


共通点


 俺たちは、過去の事件ファイルを引っ張り出した。


会員証の“正しい位置”

ペンの“選ばれし器”

物の“意味ある配置”


 全部、

 誰かに教えられた価値観だ。

「師匠」

「ああ」

「犯人たち、全員」

「“自分で狂った”顔してるけど」

「実際は」

「同じ方向に押されてる」


影の名前(仮)

 依頼人が、ポロッと口にした。

「……“アムウェイ・ライフ・スタディ”って」

「略して?」

「ALS」

 胡散臭さが、略称で完成した。


「物は“語る”」

「順番は“運命を呼ぶ”」

「選ばれた者だけが“気づける”」


 どれも、

 狂気の一歩手前までは正論。

「師匠」

「なんだ」

「これ、洗脳です」

「だな」


真相(まだ途中)


 今回の犯人は――

 依頼人本人だった。


 隣人が並びを変えたわけでも、

 誰かが侵入したわけでもない。

「……自分で、戻したんです」

「でも」

「“正しい並び”が……分からなくなって……」

 彼女は泣いた。


「教わったはずなのに……!」

 俺は、確信した。


この事件は、

犯人を捕まえて終わるタイプじゃない。


 依頼は解決扱いになった。


 シャンプーの並びも、元に戻った。


 でも――

 帰り道、ムコが呟く。

「師匠」

「……なんだ」

「これからも、出ますよ」

「ああ」

「“教えられて狂った人”」

「止まらないだろうな」

 事務所に戻ると、

 ポストに一枚のチラシが入っていた。


“あなたの生活、整っていますか?”

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 俺は、無言でそれを破いた。

「ムコ」

「はい」

「次の事件」

「はい」

「犯人じゃなくて」

「……?」

「教えた側を追うぞ」


 ムコは、少しだけ笑った。

「やっと、ミステリーっぽくなってきましたね」

 違う。


 これはミステリーじゃない。


 連鎖の話だ。

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