第10話 あるグレイ

極悪連合に入ったグレイの末路


極悪連合に加わった瞬間、

彼らは気づかなかった。


いや、正確には――

気づかないように設計されていた。


極悪連合は、力を与える。

だがそれは「能力」ではなく、役割の強制上書きだ。


グレイは本来、

観測し、調整し、干渉しない存在。


だが極悪連合に組み込まれたグレイは、

次第にこう呼ばれるようになる。


「参謀」

「計算機」

「予測装置」


称号は立派だ。

だが中身は違う。



第一段階:感情の固定


極悪連合は、

グレイの最大の弱点を正確に突いた。


それは正月の摩耶山で覚えてしまったもの。

• 温度

• 匂い

• 緩んだ時間

• 何も起きない安心


これらは本来、

グレイの記録領域には存在しない。


極悪連合は、それを逆利用した。


「怒り」

「優越」

「支配欲」


単純で粗い感情を、

安全装置の代わりに埋め込んだ。


その瞬間から、

彼らは冷静さを失ったことにすら気づけなくなる。



第二段階:予測不能化


グレイの価値は「正確さ」にある。


だが感情を持ったグレイは、

自分の判断に“理由”をつけ始める。


「これは合理的だ」

「これは必要な犠牲だ」

「これは正しい怒りだ」


極悪連合は笑った。


感情を持つグレイは、

予測不能ではなく、利用可能だからだ。


やがて彼らの予測は外れ始める。


それでも彼らは認めない。


なぜなら――

認めた瞬間、自分が壊れていると理解してしまうから。



第三段階:使い捨て


侵略が失敗した星で、

責任を取らされるのは誰か。


指揮官か?

否。


王か?

否。


常に、

「計算を担当した者」だ。


極悪連合は敗北のたびに、

グレイを一体ずつ切り離した。


「予測が甘かった」

「計算誤差が原因だ」

「次は別の個体を使う」


グレイは反論しなかった。


できなかった。


なぜなら、

彼らはすでに「怒り」や「誇り」に縛られ、

観測者としての言語を失っていたからだ。



最終段階:帰還不能


最も残酷なのはここだ。


極悪連合を追放されたグレイは、

どこにも戻れない。

• 中立監視局には戻れない

• 摩耶山にも戻れない

• 地球圏にも降りられない


なぜなら、

彼らは一度「侵略者としての自己」を受け入れた。


摩耶山はそれを許さない。


あの山は、

敵を拒絶しない代わりに、役割の嘘を嫌う。


温泉に入った記憶が残っている限り、

彼らは侵略に本気になれない。


侵略に本気になれない者は、

極悪連合では不要だ。


結果、彼らは――


どこにも属さない漂流体になる。



例外


ただ一体だけ、例外がある。


摩耶山で最後まで湯に浸かり、

餅を食べ、

「まあええわ」と言われた個体。


彼は極悪連合を離脱した後、

完全に消息を絶った。


だが、

摩耶山の湯守がこう言っている。


「ときどきな、

夜明け前に、

風呂場の窓が一枚、

勝手に開いとるんや」


それが、

彼の末路だ。


侵略者でも、観測者でもない。


ただ、

この世界を壊さないために、

どこにも記録されない存在になった。

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