中年冒険者、客を迎える

昼過ぎ。

家の扉が、控えめに叩かれた。


アメリアが顔を上げる。



「はい、どうぞ」


扉が開き、若い男が一歩だけ中に入る。

革鎧は使い込まれているが、手入れはされている。

年は二十前後だろう。



「……あの」


視線が、奥にいるハンスに向く。


ハンスは椅子に腰かけたまま、ちらりと見る。



「誰だ」


「覚えて、ないですか」


男は苦笑いを浮かべ、頭を下げた。



「この前、ダンジョンで……足、引っ張ったやつです」


ハンスは少し考え、思い出したように鼻を鳴らす。



「ああ。生きてたか」


「はい」


間髪入れず返ってきた言葉に、男は一瞬詰まるが、すぐに頷く。



「レオです。

 ……あん時は、悪かったなって」


深くはないが、きちんとした礼だった。


アメリアは二人を見比べ、そっと口を挟む。



「どうぞ、座ってください」


「失礼します」


レオは腰を下ろし、背筋を伸ばす。



「改めて、礼を言いに来ました。

 あのまま放っておかれてたら、たぶん……」


「言わなくていい」


ハンスが遮る。



「終わった話だ」


レオは一瞬黙り、それから少しだけ笑った。



「……ですよね」


「借りを作るな。作ったなら、早く返しな」


「はい」


即答だった。



「だから、今日はその相談です」


レオは袋を取り出し、机の上に置く。

中身は保存食と、少額の硬貨。



「これじゃ足りないのは分かってます。

 でも、今すぐ出せるのはこれくらいで」


ハンスは袋を見ずに言う。



「いらねぇよ」


「え」


「命拾いの値段にしちゃ、軽すぎんだろ」


レオは困ったように眉を寄せる。



「じゃあ……どうすれば」


ハンスは少し考え、顎でアメリアを示す。



「こいつの言うこと、聞くってぇのはどうだい?」


「え、私ですか?」


アメリアが驚く。



「今度、手伝いが要るかもしれん。

 その時に来な。それでチャラだ」


レオは一瞬目を丸くし、すぐに頭を下げた。



「はい。

 それなら、喜んで」


立ち上がり、もう一度礼をする。



「助けてもらったこと、忘れません」


「忘れていいさ」


ハンスは素っ気なく言う。



「だが、同じ失敗は繰り返すんじゃねぇぞ」


レオは、少しだけ笑った。



「……肝に銘じます」


扉が閉まる。


アメリアは息を吐いた。



「真面目そうな人ですね」


「まだマシな部類ってやつよ」


「助けてよかった、ですか?」


ハンスは答えず、椅子にもたれた。



「……面倒が増えちまったな」


そう言いながら、否定もしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る