第2話 支柱となるために

01 魔術師になれない程度の魔力

【新任の理報官は問題児!?】

(本エピソードは、別途掲載していた一篇を整理のために再掲したものです)


 自分の子供に「魔力」というものがあると判明したとき、親のほとんどは嘆き、悲しみ、その事実を否定しようとする。

 理由は主にふたつ。

 ひとつは、魔力を持つ「魔術師」が忌まわしい存在だと思われているからだ。親は、我が子がそのようなものになってしまうのか、という衝撃や怖れを抱く。

 もうひとつは、魔術師協会という存在のせい。魔力を持つ者は協会で何年も厳しい教育を受ける義務がある。つまり、愛し子が得体の知れない組織に連れて行かれてしまうという悲しみや怒りのため。


 だが――。

 カーセスタ王国の首都カーセステスに暮らすファーダン家では、少し様子が違った。


「やったじゃないか! お前、理術士になれるぞ!」


 父は、ひとり息子に魔力が発現したことを大喜びした。


「理術士の道が拓けるの!? 最高じゃない!」


 母も大いに喜んだ。


「一定以上の魔力があると理術士になるのは無理なんだよ」


 書物を閉じて、彼は言った。


「ぼくの魔力が少ないことを祈っててね、父さん、母さん」


 ジェズル・ファーダン少年は、真新しい眼鏡を押さえて、冷静に返した。


―*―


 幸いにしてと言うのか、ジェズル少年の魔力は決して強くなく、魔術師協会の視点からすれば「魔術師として仕事をするには至らない」段階だった。

 それでも協会は最低限の教育を施す。弱かろうと魔力は危険な力であり、その扱い方を誤れば、本人も周囲も無事では済まないからだ。


「どんなにささやかな力でも、協会上の定義では魔力があれば『魔術師』となる」


 初等教育を終えたある日、協会の導師がこんな話をしてくれたことをジェズルはよく覚えていた。


「世界中のほとんどの場所で、『魔術師として仕事ができない程度の魔力』というのは厄介だ。汚らわしいだの忌まわしいだのという無知な偏見を押し付けられながら、それに抗う力を持てないからだ」


 魔術師として何らかの職にある、稼いでいる、人の役に立っている、ただ自分が満足している、何にせよ「他人の悪意を跳ね返す確固たるもの」を持ちづらい――というような話だったが、そこはまださすがのジェズルにも難しかった。

 ただ、このあとが印象深かった。


「しかしカーセスタ王国に生まれた君たちは運がいい。君たちには『理術士』という道がある。もしこの中の誰かひとりでもいい、理術士になることがあれば、それは他の者への力にもなるだろう」


 「魔力が少ない」という、世界の多くの場所でただ「半端者」「厄介者」になりかねない資質が、理術士にはむしろ必要となる。

 もちろん魔力だけではなく、多くの勉強が必要だ。強い倫理観も求められる。試験に挑めるだけの知識を身につけるのは並大抵のことではない。

 それでも、魔力があることによって拓ける道はほかにもあるのだと。

 同時に初等教育を終えた者たちは何名かいたが、特に誰も感銘を受けた様子はなかった。たいていはまだ子供で、ピンとこないことも多ければ、「勉強」はもうたくさんだという気持ちでもあったかもしれない。


(理術士)


 しかしジェズル少年は違った。

 父親が理術局勤めで、その言葉に馴染みがあるせいもあっただろう。もちろん子供らしく、「親が自分にそれを望んでいる」ことをよく知っていて、その影響も大きい。

 それでも、このとき自分自身の意志で初めて思ったのだ。


(ぼくは、理術士になろう)


 カーセスタ王国に生まれ、「魔術師になれない程度の魔力」を持っているというのは非常に素晴らしいこと。

 自分はこの力をこの国で活かしたい、と。

 その「気持ち」が彼の心の灯火となったのは、この日からだった。


―*―

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