天才詐欺師は三度笑う
一宮 沙耶
プロローグ
私の体は、長らく兄に乗っ取られてきた。
兄は、何の野心もなく、ただ平凡に、私の体を使って生きながらえている。
そんなに平凡に人生を過ごすなら、私の体を返して。
私はといえば、兄の目と耳を通して外の世界を見聞きすることはできる。
でも、感触や味は、何も感じることができない、無味乾燥な世界が広がる。
どれだけ、たいくつな時間が永遠に続いているのか理解できないでしょう。
考えることは、兄から自分の体を取り戻すことだけ。
もし、兄が私を見ることができたら、般若のように兄を睨む姿がそこにあるに違いない。
ただ、もう憎しみの心は、長い時間とともに潰えた。
今は、自分の体を使い、快楽に溺れる日々をどう実現するかだけを考えている。
兄が油断した隙に、兄をこの体から追い出す。
私には時間はたっぷりある。
もとは、母親が亡くなり、家政婦の不始末で私は死んでしまったことから始まる。
そのまま天国に行けるはずだったのに、無理やり、兄が私の体に入り込む。
父の仕業だった。
でも、兄から自分の体を奪う日がやっときた。
最初は、短い時間、兄の意識を無くして、私が、その時間を貰い受ける。
そして、時間とともに、その時間を増やしていく。
自分の体を取り戻しただけだから、兄に謝る気持ちはない。
でも、この体で人生を謳歌したのは、わずかな時間に過ぎなかった。
どうして、私には与えられた時間は少ないの。
こんなに長い間、苦痛を味わってきたのに。
お母さん、兄ばかり可愛がって、ひどいよ。
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