第3話 アキバ都
電車とリニアを乗り継ぎ、
私が向かうのは、ここだ。
──アキバ都。
かつて秋葉原首都構想計画により、
一地方都市だったこの場所は、
行政、経済、文化の中枢として再編された。
首都機能は集約され、
交通網は最短距離を結び、
街は「管理されること」を前提に作られている。
そう説明を受けたのは、
ほんの数分前のことだ。
リニアの発車まで、少し時間がある。
喉が渇いた。
金銭的な余裕は、あまりない。
売店の前で立ち止まり、
水のペットボトルに手を伸ばしかけて——止めた。
……だめだ。
厳罰を、思い出す。
飲料の指定。
水は不可。
「ジュース」であること。
さらに、
果汁百パーセントのものは
「嗜好飲料に該当しない」とされている。
危ないところだった。
私は棚を見直し、
メロンソーダを手に取る。
これでいいだろう。
炭酸、着色、甘味。
文句のつけようがない。
『私ってば忘れるところだった♡
気をつけて出発しないとっ♡』
軽い声が、
誰に向けるでもなく漏れる。
内心は、落ち着いている。
私は、問題ない。
リニアに乗り込み、
指定された座席に腰を下ろす。
加速は静かで、
揺れも少ない。
車内は清潔で、
人は多いが、視線は浅い。
派手なメイド服も、
高い位置で揺れる黒髪のサイドポニーテールも、
ここでは「要素」の一つに過ぎない。
『はぁ〜♡
すっごいねっ♡』
声だけが、
少しだけ浮いている。
それから一時間ほどして、
アナウンスが到着を告げた。
扉が開く。
一歩、外に出て——息を呑む。
光景が、違う。
建物は高く、
曲線と直線が混ざり合い、
空中にはホログラムが漂っている。
広告、案内、装飾。
すべてが整理され、
汚れがない。
路面は磨かれ、
ゴミ一つ落ちていない。
まるで、
アニメの世界だ。
萌川県から、
ほとんど外に出たことがなかった。
あの場所は、
少し便利で、「生活の街」だった。
ここは違う。
ここは、
見せるために作られた都市だ。
テーマパークのようで、
それでいて、
すべてが本気で運用されている。
人の流れは速く、
誰も立ち止まらない。
私も、その流れに乗る。
『えへへ〜♡
迷子にならないようにしなきゃだっ♡』
声は軽い。
心は、冷静だ。
黒霜は、ここには降っていない。
降っていないからこそ、
この街は眩しい。
私はスーツケースを引き、
アキバ都の中へと歩き出す。
問題は、まだ起きていない。
——それでいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます