第4話

「さて……、今日は裏庭の掃除をしていくわよ!アメリ、あなたも手伝いなさい。」

「……?」

 リリーは広大な裏庭(とは名ばかりの荒れに荒れた雑木林)を前に気合を入れる。そう、リリーには分かっていた。このままではアメリの果てしない食欲の前に、今家にある食糧どころか、家の備蓄もすぐに尽きてしまうであろうことが。

 なんせアメリは朝から腹持ちが良いはずの硬いパンを3つ、スープをひと鍋、魚を2匹、せめて少しでもお腹を満たしてくれればという思いで出した野菜たっぷりの大皿のサラダを3皿も平らげたのだ。

 しかも、アメリは出したものは何でもよく食べたが、サラダを出すと「そんなもんで腹が満たされるか」と言わんばかりの目で見つめてくるのだ。アメリは表情や目を見ても基本的に無感情であり、何を考えているかもわからないことが多いが、これだけはリリーにも伝わってきた。


 正直かなり頭にきたものの、だからと言って今更外に放り出すわけにもいかない以上、何とかするしかない。

 よって、無駄に広い土地を有効活用して畑で野菜でも栽培してみることにしたのだ。アメリが野菜嫌いだろうが文句は言わせない。


「アメリ、あなたってば家にあるものを片っ端から食べつくしちゃうんだもの。働かざる者食うべからずよ! せめて自給自足してもらわないと割に合わないわ。さあ、大きな風を起こすでも植物を動かすでもいいから、この雑草たちを何とかしてちょうだい。」

「?」

「……あなた、やりたくないからって分からないふりをしているんじゃないでしょうね?」


 リリーは昨日アメリが魔法が使えることが判明してから、ここ一面の雑草や謎の蔦、邪魔な木々なんかを一掃してもらおうと目論んでいた。何とか魔法を使ってもらって楽をしたい一心で(またもう一度魔法を見てみたいという童心で)一生懸命地面に絵を描いたりして説明したが、リリーには絵心がこれっぽっちも無いためアメリには全く伝わらなかった。

 だがそれにがっかりしたところで絵心が生まれることはないし、アメリが話を理解してくれることもないため、リリーは仕方なしに手作業で裏庭の整備を開始する。アメリは興味があるのかないのか何度かリリーの真似をして雑草を抜いた後、飽きたのか作業を放棄してその辺に座り込んでいた。こいつ……!


 リリーはわなわなと震える手を抑え込み、無心で雑草や蔦をちぎっては投げ抜いては投げし続けた。そのうちに、一本の蔦に生えていた棘がリリーの指に突き刺さってしまう。

「痛っ……!」

「リリー?」

 痛みを訴える小さな声を拾い上げたアメリが即座に近寄ってきてリリーの様子を伺う。指から血が出ているのを見ると珍しく衝撃を受けたように目を見開いてき、ウロウロと周囲を回り出した。その仕草がなんだか焦ったときの犬のように見えて、リリーは思わず吹き出す。

「ぷっ……大丈夫よ、こんなの大した傷じゃないわ。」

「リリー、いたい。アメリは……。」


 アメリは何度か困ったようにリリーと目の前の雑草や木々を見比べると、なんの予備動作もなく一瞬で草木を灰にした。あまりに一瞬の出来事で何が起きたのか理解することすら難しかったが、数十秒ほどして、アメリが魔法を使ったのだと気付く。

 目の前でゴオゴオと燃え盛る炎を見てリリーの頭の中に「山火事」の三文字が浮かぶが、幸いにも魔法で生み出した炎は制御可能なのかすぐに鎮火した。

 その間、アメリはリリーの手を取り指から出る血を熱心に舐め続けており、暫くして炎が消えて目の前の焦土と化した裏庭を見るとそっと指から口を離す。いつのまにか出血は止まっていた。それどころか傷も消えているように見える。

 リリーを見つめるアメリの瞳からはやはり何の感情も読み取れないが、やたら熱心に見つめてくるあたり、褒めてほしいのだろうか? 


 せめて何か言ってから魔法を使ってくれとか、手とか土まみれだし汚いから血を舐めるのはやめてくれとか、アメリに対して言いたいことは色々あったが、いずれにせよ助けてもらったのは確かなのでお礼は言わなければならないだろう。

「……ありがとう、アメリ。とても……助かったわ。怪我も治ったし、山火事とかにも、なっていないし。」

 それを聞いたアメリの口角が僅かに上がる。それは初めて見るアメリの表情らしい表情であり、やはりゾッとするほど美しかった。

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