影に届く光まで
ニシノ
第1話(1)
ラジオから午後五時を告げる時報が流れる。そろそろ太陽は地平線へ落ち始め周囲をオレンジ色に照らす時間だが、今日の天気は生憎の曇。分厚い雲でその光は遮られ、太陽が照らすはずの海は鈍い色をしていた。
その海を横目に雨照あやめ―私は目的地まで車を走らせていた。
目的地は半島の先端にある岬の灯台。かつては、航行する船舶の道標となっていたが、明かりが灯ることはもうない。GPSといった技術の進歩に加え、建物の維持管理など様々な要因の積み重ねで今はただ建物として存在しているだけだった。
運転しつつ、助手席に置いていた装備を確認する。拳銃に小型のドローン、こんなもの一般人から見れば相当な武装だろう。だが、『怪異狩り』と呼ばれる職業の身からすれば、こんなもの普段の数倍も軽装だった。
この土地には怪異と呼ばれる生き物のようなものがこの存在する。生物と定義するには神秘的とも呼べる力を有し、時に人に恩恵を与え、時には人を恐怖に陥れる。そういう存在が身近にいる社会だからこそ成り立った仕事が『怪異狩り』という仕事だ。
元々は人間に脅威をもたらす怪異を狩る仕事だったが、現代ではその職業内容は多様な変化を遂げ、大学生の間では高収入のアルバイト、在学中にいつかやってみたいアルバイトというイメージが根強くなっていた。もちろん、高収入なのはそれだけ危険な仕事であったり、アルバイトという雇用形態のくせに専門的な知識が必要だからということなのだが。
そんなこんなでこの仕事って時々クソだよなぁなんて思いを馳せていると、あっという間に目的地にたどり着く。いや、目的地ではないけど、車で来られる限界の駐車場。
助手席と後部座席の手の届く範囲から必要な荷物を持って車を降りる。ドアを開けた途端ゴオ、と強い風が体と重いはずのドアをどこかに吹き飛ばそうとし、せっかく整えた髪はあらぬ方向に吹き荒れる。
車を降り、風によって視界を邪魔してくる前髪を手で押さえつつ周囲を見渡す。駐車場とはいえほとんど車は停まっていない。私の停めた位置から少し離れたところにバンが一台あるだけ。岬といえどド僻地のこの場所に観光客はまずいない。
駐車場の横、『500M先白灯台』と書かれた案内板が示す散策路へ足を進める。しばらく歩くと少しばかり小高い丘が現れ、山頂には風などお構いなしに真っ白な灯台が鎮座している。本来の機能を全うし朽ちるだけの建物であるが、その存在感には人を寄せ付けまいとでも言うような威圧感がある。
その威圧感は、灯台の真下に到着するとより一層圧を強めているような気もするが、私は内部に繋がる扉に手をかける。話に聞いていた通り、鍵は開いていた。長らく使用されていない扉は重く、動かせば鈍い金属音を鳴らす。内部は明かりと呼べるものは何一つついておらず、埃の匂いが漂っていた。
ドローンを起動させ内蔵したライトで周囲を照らすが光源として弱い様でぼんやりとした光を灯す。
「まーそうだよね」
このドローンのライトが心許ないのはわかっていた。鞄から懐中電灯を取り出す。建物の上部を照らすと、灯台の一番上に向かう階段が螺旋状に伸びていることがわかる。階段には蜘蛛の巣が張り巡らされている様で、光の当たった箇所では進路を塞ぐように糸が輝いていた。だが、今私の向かう場所はそちらではない。
螺旋階段の周りを半周したくらいの所、丁度階段の裏手に扉を見つける。『関係者以外立ち入り禁止』とあるが鍵はかかっていない。
中には下へ伸びる階段がある。螺旋階段ではなく一般的な階段。真向いにはエレベーターがあるが、どうやらIDか何かがないと動かない様で使用することはできなかった。
「確か地下一階ってなってたしそんな疲れないか」
誰もいないことをいいことに独り言を呟きつつ下っていく。懐中電灯に加え先導してくれるドローンの照らす明かりを頼りに階段を下るが、先の見えきらない階段は下りにくく確かめる様に歩みを進める。
やっと目が暗闇に慣れ切ったころ、踊り場についたかと思ったがどうやら目的のフロアに着いたらしく壁に『B1』と書かれている。
ドローンが私の先を行きフロアの一部をぼんやりと照らす。
いくつかの扉、その横には部屋の名称が書かれている。
『第一研究室』、『第二研究室』、『機器室』と、ここが研究施設であるのは明らかな名称ばかりだ。
ここは灯台としての機能を全うした後、民間の研究施設に改修された。だが、地元住民も詳細は知らない、そんな場所だったそうだ。そのせいと、この近辺が怪異の警戒地区、つまり武装できる怪異狩り以外の立ち入りは制限されたことでここは曰く付きの場所として扱われるようになったとかなんとか。
「やばい研究とかしてたらやだな」
怖い場所が苦手なわけではないが、逃げ場のないこの場所でとんでもないものに遭いたくはなかった。
余計なことを考えると周りが気になってしまい、さっきまでまっすぐ前だけを照らしていた明かりを右へ左へ動かしてしまう。が、そのおかげかこのフロアの全容が見えてくる。
放置された施設とはいえ、壁や床が傷んだ様子はなく電気がつけばすぐにでも使えそうな状態に見える。警戒地区に指定されたのは十年ほど前、ここが閉鎖されたのもそれと同時期だと聞いていたがそうは見えない。地下だからこうなっているのかと思いつつもどこか違和感がぬぐい切れない。
通路を歩き続け突き当りにたどり着く。そこには『保管室』と書かれた部屋の扉がある。
「ここか」
扉にはセキュリティカードをかざす機械が取り付けられている。どうやら電気は通っている様で、機械の表示画面には「LOCK」と出ている。
ここを壊してこじ開けるのもアリかなと悪戯心が囁くが、私は仕事でここに来ている。その誘惑を宥め、クライアントから預かったカードをかざす。
すると電子音が鳴り、続いて鍵が開く音がする。
「お邪魔しますー」
誰もいないとは思うが一応の挨拶をして中に入る。
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