『竜種(笑)』がムカつくサバイバル〜天の声が俺を嵌めてくるのでツッコミが止まらない件〜

蒼依スピカ

1話「G」

 ここはどこ、わたしはだぁーれ?


 なんて冗談を言ってみたりするわけだが、マジでそんな状況なんだわ。

 ここ、どこよ?

 なんか薄暗い洞窟の中って感じなんだけど、なんでこんなところにいるわけ?

 確かさっきまでオカマバーで楽しく飲んでいたはず。

 クソ上司のパワハラが会社にばれて即日解雇。同僚みんなでお祝いパーティー。初めてのオカマバーはめっちゃ楽しい時間だった……スピリタス(アルコール度数96パーセント)を一気飲みするまでは。


 あー、するんじゃなかったわー。

 若気の至りって怖いねー、まさに怖いもの知らず。

 おかげで記憶が吹っ飛んだわ。

 まあ、酔って見知らぬ場所に迷い込むなんてことはよくあることだし、ここが洞窟でも良しとしよう。だが別の大きな問題がある。それは……自分が誰かわからんということ。

 冗談っぽく「わたしはだぁーれ?」なんて言ったけど、マジなんだわ。

 なんで?


 会社の連中のことやある程度のことは思い出せるのに、自分が誰だか思い出せん。

 バーで裸踊りしていた記憶はあるので男なのは間違いないと思うが、自分のことがほとんど思い出せん。

 謎の洞窟に記憶喪失……スピリタス、やべーわ。

 良い子はスピリタスの一気飲みは止めましょうね♡

 ちょっとオネエっぽく言ってみたら落ち着いてきた。オカマバーのお姉さんたちに感謝。


 ふう、とりあえずここから出ようか。

 きっと田舎の終着駅まで乗り過ごして山中に迷い込み、変な洞窟にでも入ってしまったのだろう。酔っ払いあるあるだ。

 よっこらしょ……って、起き上がれねーぞ、おい。

 足は動くけど他が全く動かん。

 ……つーか、足、多くね? 絶対に二本じゃねーわ。

 なーんか足の感触が六つあるんだよな。両手両足を地面につけてる感じじゃない。完全に素足で足が六つ地面に付いてる。手の代わりに足が動くって感じ。

 ……なんぞこれ? まるで虫じゃん。

 視点が地面すれすれで視界がめっちゃ広いのでおかしいなーとは思ったけど、俺、虫じゃん。


 あー、これは夢だわ。スピリタス恐るべし。こんな高度な夢まで見せてくるとは。もう二度と一気飲みはしねーと大吟醸に誓う。

 あ、身体は起こせないけど歩くことは出来る。虫のように。

 カサカサカサカサ――。

 まるでG――ゴキちゃんのような効果音が聞こえる気がするけど気のせい気のせい。

 ミーはゴキじゃないぞ。

 アイ・アム・MU・SHI。

 お、水たまり発見。

 二日酔いには水が良いってね。

 虫ボディが二日酔いかどうかは知らんけど。

 チャプ――。

 うめぇ。

 天然の水ってこんなに美味しいんだな。

 口の動きが虫っぽくて虫っぽい舌が出てたけど、気にならんぐらい美味いわ。

 で、衝撃の事実がここで判明。

 水を飲むために顔を水たまりに近づけたとき、自分の顔が水面に映った。

 俺、ゴキちゃんだわ。

 目に入った瞬間、自分の姿にモザイク処理が入ったから間違いない。人間の脳は生理的に受け付けないもの対しては防衛反応が起きるようになっているのだ。人間って素晴らしい。今の俺は人間じゃないけど。


 にしてもないわー。

 いくら夢でもゴキちゃんはないだろ?

 なんで害虫よ?

 ゴキちゃんホイホイを会社に仕掛けたからか?

 今主婦に見つかったら丸めた新聞で「キャー!」言われてプチっとされる未来しか見えんわ。

 こんな洞窟に主婦がいるわけないないと思うが夢なら何でもアリだからな。


「グッホ、グッホ!」


 こんな馬鹿でかいゴブリンキングみたいな奴までいるんだ。主婦がいない理由にはなんねー。

 ……ん? ゴブリンキングみたいな奴?


「ウゴォォォー!!」


 おいキング。その振り上げた棍棒をどうするつもり――。

 ドゴォ!!

 あっぶね!! ゴキちゃんの素早さがなかったら死んでたわボケが!!

 カサカサカサカサ――。

 とりあえず岩陰ならぬ小石の影に逃げ込む。

 この薄暗さだ。よっぽど夜目が効かない限り、隠れたゴキちゃんを見つけることは出来まい。


「ウホ? ウホホ?」


 ゴブリンキング(仮)はキョロキョロしながら俺を探してる。

 俺の願いが通じたのか自然の摂理なのか、こいつは夜目が効かないタイプだったらしい。うろつきながら姿を消した。

 あるかどうかも分からん心臓がバクバクいってる。

 きっと今の心拍数を図ったら医者が腰抜かすと思う。それぐらい驚いたし恐怖した。いやマジで、これは命の危機だったから。主婦の新聞紙どころじゃねーわ。いくら夢でもやっていいことと悪いことがあるだろ。

 ゴキちゃんホイホイを仕掛けてスピリタスを一気飲みしたのがそんなに悪いことなのか、ああん?

 こんな夢を見せた奴に凄んでみたが、自分に返ってきそうなのでこれぐらいにしておいてやろう。寛大な俺に感謝するといい、馬鹿な俺よ。


《経験値が規定に達しました。レベルが1から5に上がりました》

《スキルポイントを10獲得しました。保有スキルポイントは10です》


 ホワイ?

 なんだ、今の機械音声みたいなのは?

 まるでゲームのようなレベルアップアナウンス。

「ちからアップ」とか「まもりアップ」とか言ってないのでステータスは分からんけど、どうやら俺のレベルが上がったらしい。

 ……なぜにゲーム仕様なんだ、この夢は?

 まあ、夢ならなんでもアリか。俺はゲーマーなので俺の夢ならゴブリンキングもレベルアップも許容範囲だ。


 で、レベルが上がったは良いけど、疑問が何個か湧いた。

 一つ目。

 俺はモンスターを倒してない。経験値とやらはどこから沸いて出た?

 二つ目。

 スキルポイントを10貰えたけど、これをどないすれと?

 三つ目。

 レベルがあるのにステータスはねーの? それはゲームとしてどうなのよ。俺の夢にしては詰めが甘いんじゃねーの?

 などなど色々疑問は湧いたけど、ここがゲームなら「あの言葉」を唱えれば一発で「俺」のことが分かるだろう。

 スゥ、ハー…………ステータス!


 はい、何も起きませんでした。

 ステータスじゃなければプロパティか? キャラ情報か? インフォメーションか?

 ……はあ、何も起きねー。

 このままじゃ「ゴキちゃん、レベル5、スキルポイント10」しか分からねーじゃねーか。どんなクソUIだよ。仕事しろ、俺の脳みそ。

 せめてスキルポイントがなんなのかぐらい説明しろよ、天の声。

 スキルポイントって言ってもゲーム毎にちょっとずつ解釈が違う場合があるんだよ。

 普通ならスキルを覚えるために必要なポイントだ。これを使って隠密とか交渉術を覚える。

 日本語が怪しい洋ゲーだと、スキルポイントは力とか素早さなどのステータスアップに使われる場合がある。自分の好きなステータスのキャラを作りましょうってやつだ。

 ……今回はどっちだ?

 スキルか? ステータスか?

 おい、天の声、それぐらい教えろ。


《……》


 無視かよ。俺が虫だから無視すんのか?

 俺にしか受けねーし、99パーセントの人は冷めた目で見るぞ。それでもいいのか、天の声さんよー。


《……》


 黙りかよ。

 もういいか。このゲームをプレイしてればそのうち分かるだろうし。

 ゲームシステムとか目的とかはサッパリ分からんけど、不親切なMMO RPGだと当たり前だしな。

 初代ロマンシング・サーガを50時間もプレイした俺を舐めるなよ。

 これがフリーシナリオRPGで好きなルートをプレイできるならどうすっかなー。

 どうせなら世界を救う勇者にでもなってちやほやされたいけど、今の俺はゴキちゃんだし、どう考えても人類の敵ポジションだよな。

 ……いっそ魔王にでもなって、世界征服とかしちゃう?

 ゴキちゃんから魔王になれるかどうかはわからんけど、目指すだけならタダだし、夢なんだから文句を言われることもない。

 よし!

 俺は魔王になる!

 そして世界征服だ!

 第一ミッションは、今まさに俺をロックオンしているケルベロスから逃げ切ることだ!


「ウォォォーーーン!!」


 ヒャッハー!

 俺の魔王伝説はここからだ!!

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