滅びの魔法使い〜奴隷階級からの叛逆。最凶の魔法が世界を壊す〜
綾丸湖
第1話 さようなら、世界
真面目に生きてれば報われる?
そんなの、戯言だよなぁ。
じゃあ、なんで善人が割を食って、悪人がでかい顔してんだよ。
「ひぃっ、もう、許して……」
「ああ!? 許すとかじゃねぇんだよ!! てめぇんとこのガキがウチの金持って逃げたんだよ! どう落とし前つけんのかって聞いてんだ!」
腹を蹴られ、うずくまる。
薄暗い倉庫に、嗚咽が響く。
「ぐ、うぇあ……は、払います!払いますからぁ! もう、もうやめて……」
「冴えねぇサラリーマンが払える金額かよぉ!? ええ!?」
再び始まる暴力。
この世はあまりにも理不尽だ。
安い給料で働いて、家族を養って、家庭では蔑ろにされて。挙げ句の果てに息子がヤバイとこの金を盗んで逃げたなんて、あんまりだ。
「ああ、クソッ! なんで俺が尻拭いしなきゃなんねぇんだ!」
男は吐き捨てるようにそう言って、
「なに見てんだてめぇ!!」
すでにズタボロの体に、蹴りが入る。
口の中は擦り切れ血の味しかしないし、体中に痣ができてどこが痛いのかもわからない。これだけやられて、骨が折れてないのは奇跡だ。無駄に身体が頑丈なことを知ったよ。
え、ああオレ?
オレはまあ、友達だと思ってたやつに騙されて、ヤバイとこから金を盗んだ共犯にされて、裏切られてここにいる憐れな男だ。まあ、オッサンよりは断然自業自得と言える。
隣でうずくまってるオッサンみたいな真面目に生きてる人でさえ報われてないんだから、オレみたいなのが報われないのも当然なのかね。
あー、そろそろ痛みもわかんなくなってきた。なんでこんな意味わかんないこと考えてんだろ。
もう、ぼちぼち死ぬんじゃないかな。
こんなはずじゃなかったのになぁ。
チラリと、うずくまったオッサンを見る。
オレなりに悪いことせずに生きてきたのに、最後にオッサンに迷惑かけて終わるなんてな。
「とりあえずてめぇは売り飛ばす! そんで、オッサンよぉ、あのカスには妹がいたはずだよなぁ?」
下卑た目をする男。
その言葉に、耳を疑った。
「あ、あの子には、手を出さんでくれ……」
「うるっせぇ! こっちは金が必要なんだよ! テメェなんかよりよっぽど金になんだろ!」
はぁ? あいつ、妹がいたのか。
おいおいおい、それは駄目だろうよ。
その時、男のポケットから着信音が鳴った。
「チッ、誰だこんな時に……。うぇ、やべぇなボスからかよ。まだバレてねぇよな?
……あ、ああボス、何か用ですか? え? ああ、金はちゃんと用意してますよ任せてくださいって――」
男は少し離れて通話をし出した。
会話の内容から察するに、この件については隠しているようだ。
罪のない女の子にまで迷惑をかけるなんて、死んでも嫌だ。そんな不条理は認めない。
……どうせ死ぬなら、やるか。
「オッサン、オッサン。聞こえてっか?」
オレは、小声でオッサンに話しかけた。
「ぅ、うう、なんだ? もう、私は……」
「このままじゃ、あんたの娘が酷い目に遭う」
オレの言葉に、オッサンが悲壮な顔になる。
「そん、な……。なんで、こんな……。あいつは、何故こうも、私たちを苦しめるんだ……」
「泣くなオッサン。この件は、そこの男しかまだ知らねぇ。オレらで、あいつ殺すぞ」
オレの言葉に、オッサンは目を見開いた。
「こ、殺す……? そ、そんなこと。だ、だいたい君は誰だ」
「オレはアンタの息子に騙された可哀想なやつだよ。つーか、んなことはどうだっていい。時間がねぇ。オレはアンタの娘さんに迷惑かけたくねぇんだよ。アンタ、覚悟はあるか?」
オレの言葉を聞いて、オッサンは小さく頷いた。
「……わ、わかった。だが、私は人を殺したことなんて……。ど、どうすれば」
「んなもんオレだってねぇ。どうにかしてオレが男の動き止めっから、その辺の角材でぶん殴れ」
幸い、凶器になりそうなものはその辺に転がっている。荒事に慣れていそうな相手に対して、こっちはズタボロの素人二人。勝ち目は薄いが、文字通り死ぬ気でやるしかない。
電話で気が逸れている今がチャンスだ。
油断している隙をつき、一気に襲いかかる。
「――いやいや、ですから。っと、すんません切ります!――――んだテメェ!? 死にてぇのか!?」
「う、ぉおおおおおおお!!!!!!!」
飛びかかり、男の体にしがみつく。
殴られるが、もはや痛みなんてどうでもいい。
がむしゃらに噛みつき、引っ掻く。
とりあえず目玉を狙い、喉元に喰らい付いた。
「いてぇなクソがッッ!!」
しかし、オレの体は抑えられ、早くも持ち上げられそうだ。
頼む、オッサン……!!
「わ、ぁああああああ!!!!」
ゴンッッ
ひ弱な掛け声の後、鈍い音が響いた。
「ガッ、て、テメェら……」
オッサンの放った一撃は、男の腰にクリーヒット。
だが、まだ倒れてない。
「オッサン!! もっとだ!!」
「うわぁぁああああ!!」
オッサンはめちゃくちゃに角材を振り回す。
オレも腕を振り回して、殴り続けた。
そして……。
「……」
男が倒れ伏し、沈黙する。
「し、死んだんですか……?」
「わからねぇ」
肩で息をするオレとオッサン。
達成感などない。頭が、ぼんやりする。
アドレナリンとやらが切れたのか、身体中が悲鳴をあげている。とにかく、ここを離れなければ。
「オッサン、早く逃げよう」
「え、ええ。そうですね……」
足を引きずり、二人で男に背を向けた。
「逃ガス、カヨォ……」
背後から男の声。
瞬時に振り向くと、血走った目をした男がナイフを持っておっさんの方へ突っ込んでいくのが見えた。
なんだか、やけにゆっくりと時間が流れている。
このままだと、オッサンは刺される。
だが、男も重傷だから余力はほとんどないはずだ。オッサンが刺された後なら、勝つ見込みも……。
ふと、オッサンの顔を見た。
ああ、そっか。
娘さんが、いるんだよなぁ。
「あ……」
気づいた時には、オッサンを突き飛ばしていた。
腹を見ると、貫通した刃物。
真っ赤な血が、ドクドクと溢れ出て……。
これは、もうダメだ。
だけど、タダでは死んでやらねぇ。
オレは刺されたまま、男を押さえつけた。
「ゴフッ……。オッサンっ、やれ!!」
呆然とするオッサンに喝を入れる。
ここまでしたんだ。しっかり生き残れよ!!
「あああああああ!!」
「ガッ……、ァ……」
なんとか、オッサンは動いた。
角材が、男の頭にぶち当たる。そして、男が倒れ込んだ。ピクリとも動かない。流石に、もう起きてはこないはずだ。
それを確認し、オレも地面に倒れた。
「き、君! 大丈夫か!? は、早く救急車を……」
「バカ、言ってんじゃねぇ、よ」
もはや助かる見込みはない。
それに、救急車なんて呼んでどう説明するつもりだ。
「だ、だが……」
「いいから……。それ、寄越せ。んで、オレに握らせろ」
「え、これを……?」
オッサンの持ってる角材を指差す。
「い、いいか? 全部、オレが、やったことにして、逃げろ。そんで、全部、忘れろ」
「そんな! 君も一緒に……」
「それこそ、バカ、だ」
このオッサンは善人だ。
ならば、こんなこと忘れて生きるべきだ。
「娘さん、いるんだろ? 守って、やれ、よ……」
あの馬鹿野郎、妹がいたなんて聞いてねぇよ。
家族に迷惑かけて、そんなに金が大事かねぇ?
俺にも、妹がいた。
優秀だった妹は引き取られて、オレは落ちぶれたから、随分長く会ってない。身体が弱かったけど、元気に、やってっかな……。兄貴らしいことなんて、一つもしてやれなかったな。
こんなことになるなら、もっと……。
「あ、ああ、もちろんだ! うぅ、すまない、そしてありがとう……!!」
感謝なんてされたの、いつ以来だ?
クソみたいな人生だったが、最後に良いことしたよなぁ?
善人のオッサンと、罪のない女の子を救ったんだ。
オレにしては、上等だろう?
「そ、そうだ、名前、君の名前は……」
「な、まえ……」
もう、声も出ない。
オレの、なまえ、は……
――――――――――――――
『リュオン……? なあ、この子リュオンというらしいぞ』
『あなた文字なんて読めたの? それにしても、なんて可愛らしいのかしら!』
『ああ、ほんとになぁ。なんで捨てるなんて、可哀想なことするんだか……』
『……この子、私たちで育てましょうよ』
『ええ!? ……いや、そうだな。きっとこの子は、神様から僕たちへの、もう一つの贈り物だ』
『ふふ、そうね! お腹の子と、リュオン。一気に二人も子供ができるなんて、私たちは幸せ者だわ!』
声が、聞こえた気がした。
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