第4話: 鳥居の異変
ちょっとやばいかも。意識が遠くなってきたのか、魔獣の雄叫びも全く聞こえない。耳鳴りがして膝をつく。
シロを抱きしめる腕に力を込め、思わず目を瞑る。自分の呼吸と心臓の音が大きい。じいちゃん、ねえさん、すまん...。
何も起きない。アオバ熊の気配も消えた?
恐る恐る振り返る。鳥居の向こうに迫りくるアオバ熊。でも剝製にでもなったかのようにピクリとも動かない。
というか全体的に違和感がある。空気が変わった。景色がセピア色だ。音もない。まるで時間が止まっているような感じだ。
いや、実際に時間が止まっているのか?木々の葉は風に揺れることなく静止し、空には薄い雲がかかったまま動かない。
ちょっと風景も違う。まるで古い写真の中に迷い込んだかのような光景だ。腕に抱いたシロも動かない。でも生きている感じはする。
「とりあえず助かったのか?」
地面の砂利道は、どこか柔らかな光を帯びており、足元に影すら落ちていない。まるで、夢の中にいるような感覚だ。
俺は困惑しながらも一歩を踏み出そうとしたが、体制を崩して座り込んだ。足元の砂利が音を立てることなく沈み込む。
「これは...なんなんだ?」
その時だった。抱き上げているシロから声が聞こえた。
「聞こえる?」
思わずシロを落としかけて、慌てて抱き直す。
「シロ?お前しゃべれたのか!?」
シロにこんな力があったなんて。とりあえず何か知らないけれどありがとう。シロがやったことなら安心だ。
「落ち着いて。私はシロじゃないわ」
ほう。シロではない。まだピンチか?ピンチが続くのか?なるほど俺は落ち着いている。俺は急いで周りを見回したが、自分たち以外は誰の姿も見えない。
声は穏やかで、どこか安心感を与える響きを持っていた。それでも、シロから出てくる声に俺は警戒を解くことができない。
「敵じゃないって……お前は誰なんだ?シロや俺に何をしたっ?」
俺は問いかけながら動かないシロの目を睨みつけた。
「違うわ。私の声は鈴から出しているわ」
「鈴……?」
俺は少しだけ目線を落としてシロの首輪を凝視した。鈴は淡い光を放ちながら、まるで生きているかのように微かに揺れている。
「私も状況がよく読み込めてないけど、私は目覚めることができたみたい、まあ、ともかく一旦お互い落ち着きましょう」
「はぁ」
「君、追われているんでしょう?あの獣魔に。寝起きだったから少し変になっちゃたけど、さっきの水遁も私が発動させたわ。とりあえずお礼をいただいたいわね」
「さっきの水遁、きみだったのか。ありがとう。というか、水遁、生で見たのは初めてだったよ」
「素直でよろしいわ。サポートしがいがある。手始めに目の前の危機をなんとかしないと。まずは、そうね。深呼吸して心を落ち着けて」
ふぅ。なんか緊張感とテンションが変な感じだな。会話の主導権を握られているけど大丈夫なのか?変な感じはしないけど...。
「あら、あなた、風遁の才能があるわね。先生やご両親っていらっしゃる?そういう話は聞いたことあるかしら?」
じいちゃんがそんなこと言ってたな。じいちゃんは土遁の使い手だったけど、俺にもそういう才能があるって。
「さっき私の奉納されていた部屋の扉を開けたでしょう?あたなの『伝説の力』を使った時と同じよ。『丹田』という臍の下の箇所を意識して」
え?なにそれ?思わぬ角度からピンチが襲ってきたんだが。ふいに掘り返された直前の黒歴史を忘れるべく、無理やり意識を集中させる。
「さっきは鈴の力だけだったけど、この『絶界』の中であれば、もっと力を感じやすくなるはずよ」
俺は半信半疑ながらも、鈴の言葉に従った。シロをそっと地面において、立ち上がり深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
そして臍の下に力を貯める。すると、体の中に何か温かな流れを感じた。それは、まるで風が体の中を吹き抜けるような感覚だった。
「それが君の力。風の術素よ。今はまだ未熟で風遁とまでは言えないけどね。でも大丈夫。私が導いてあげる」
「導くって、どうやって……?」
不意に目の前に、ふよん、とドングリくらいの小さな水の塊が現れた。
「風の力を指に籠めながら、私というか鈴と水をそれぞれの手で触ってくれる?今回は『絶界』の中にいるから、簡単にうまくいくわ」
丹田と両手を意識しつつ、右手で鈴、左手に水を触る。空間に固定された水って何か新感覚だな。気持ち、何かを流し込んでみた。
「おっけー」
鈴がそういうと、触っていた水がオープンカフのイヤホンのように変形して装着された。すごいフィット感。というかすごい。なんだこれ。
「私たち、相性がよさそうね。声が聞こえるようになったかしら?」
鈴ではなく耳周辺の水から声が聞こえる。なにこれスゴイ!
「あなたの丹田と同じ位置が熊野郎の弱点になるわ。格上と戦うなら、そこを攻めるのが定石ね、あと体の中の術素の循環を意識して」
この変な世界に入ってから、なんだか体力も戻りが早い気がする。呼吸を整えて辺りを見回す。恐怖感が去ったのか、視野も広く捉えられる。
固まったアオバ熊を見据えて深呼吸。よし、程よい緊張感だ。
「いいわね。鳥居から戻ったら元の世界よ。時間も動き出す。出た直後に絶界に戻ることは不可能、時間が経てば術素は練り上げにくくなる。
今の普段のあなたでは風遁どころか術素の練り上げすら戦いの中では厳しいはず!短期決戦を心がけて!
そして、アオバ熊は今のあなたより格上、私も不完全な状態を術素を何度も無理やり練り上げたから、もう水遁はを打てない。
でも幸いなことには右目と右手をやられてるわ。鳥居を出たら私をシロごと右に送り出しながら、あなたは死角の左側に回り込む!
私のサポートがあるからって油断しないこと!心と体の準備はできたかしら!?」
俺は両手で顔を叩いて気合を入れて、腰の日本刀を抜く。そしてシロを抱えて鳥居の先のアオバ熊を睨みつけた。
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