異能バトルの裏設定を隠しすぎたら、ヤンデレ聖女にバレて大変なことになりました

すまげんちゃんねる

第1話 サクラメント・トワイライト/「青い光の摩天楼」

 ザァアアアアアッ!!


 激しい雨が極彩色のネオンを叩きつける深夜の渋谷。

 若者の熱気も騒音も消え失せ、異能結界によって隔離されたそのスクランブル交差点で銀髪の少女が吹き飛ばされた。


「くっ……うぅ……!」


 大型ビジョンの下、聖女セイントリリアは膝をつく。

 白を基調とした戦闘用聖衣バトルドレスは切り裂かれ、とろけるようなミルク色の太ももと赤いラインのような浅い擦り傷が露わになっている。


「演算終了。対象の耐久値バイタル低下を確認。完全破壊を実行する」


 センター街の暗がりから無機質な合成音声が響く。

 現れたのは全身を銀色のクロームメッキ装甲で覆った鋼鉄の巨躯。

 敵組織『無貌フェイスレス』が繰り出した最新鋭の改造人間――重装機兵ヘビーアームズだ。

 右腕の巨大な杭打ち機パイルバンカーが駆動し、白い蒸気が雨空に噴き上がる。


「理解不能だ。なぜ抵抗する?確率論的に勝ち目はない」

「勝つか負けるかではありません……。私は、守ると決めたから!」

「愚かしい。脆弱な有機生命体特有のバグか」


 重装騎兵の冷徹な電子眼モノアイが赤く明滅する。

 彼の背後には圧倒的な絶望。対するリリアにあるのは、傷ついた体と、たった一つの約束だけ。


 ――必ず帰ってきてくれ、リリア。


 脳裏に浮かぶのは、大切なパートナー・錬也レンヤの笑顔。

 彼が待っている。彼が作った居場所がある。

 その「絆」さえあれば、どれほど傷ついても痛みは愛しさに変わる。聖女の力は、愛する誰かのためにこそ輝くのだから。


「トドメだ」

「……お断り、します!」


 リリアは碧眼ヘキガンをカッと見開き睨み返した。

 雨に濡れた銀髪がキラキラと輝いている。


「私は諦めない!そこに笑顔があるなら私は守る!それが聖女わたしの役目だから!」


 リリアは聖印プロトコルを結ぶ。

 ドォオン!

 重装騎兵が鉄杭を射出した瞬間、彼女は青白い光に包まれた。


「聖域展開!固有異能――『遍在ユビキティ』!」


 それは現代都市の3D座標を一瞬で演算し、自らの存在確率を量子レベルで書き換える神業。

 すなわち「あらゆる場所」への完全転移!


 ヒュンッ!

 必殺のパイルバンカーは虚しく空を切りアスファルトを粉砕した。


「消失?センサー反応なし。どこだ」

「――ここです」


 声は背後から降ってきた。

 ビルの屋上から見下ろす完全なる死角。

 光の粒子となって再構成されたリリアの手には、光子で編まれた聖なる鉄槌メイスが握られている。


「捉えました。貴方のコードの脆弱性コアはそこですね?」


 キィィィィン……!

 リリアの瞳が蒼く発光し幾何学的な紋様が浮かび上がる。

 万象を見通す最強の魔眼――『真実の瞳ヴェリタス・アイ』。


 ARのように視界に表示される赤いマーカー。

 装甲の排熱ダクトの奥に隠された動力炉が、弱点としてハッキリと露呈していた。


反応速度スピードが上がっただと……!?」

「終わりです!汚れたコードは私が書き換えます!」


 リリアは飛んだ。その軌道は夜空を引き裂く流れ星。

 彼女の背後に天使の羽を模したホログラムが展開される。


「起動……『聖約執行・光子殲滅砲テスタメント・フォトン・バスター』ッ!!」


 ズドォォォオオオン!!


 放たれた極太のレーザーが空間を歪ませながら重装騎兵の核を貫く。


「グオオオオオオッ!!」


 断末魔と共に装甲は弾け飛び、無数の光の欠片となって夜空へと舞い上がっていく。

 硝煙もオイルの臭いもない。雪のように美しく、敵は電子の海へ溶けて消えていった。


 スタッ。

 交差点の中心に着地したリリアはふわりとスカートを翻す。

 月明かりがスポットライトのように照らし出す中、彼女は可憐に微笑んだ。


「――この瞳からは、逃げられません♪」

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