第3話:課金地獄とメルカリ
二回目のデート。
場所は、お台場のショッピングモール。
相変わらずベタだ。
でも、今回の智也くんは、前回とは気合の入り方が違った。
「セ、セナちゃん! これ、受け取ってほしいんだ!」
待ち合わせ場所のガンダム像の前で、彼はいきなり小さな紙袋を突き出してきた。
ブランドのロゴが入っている。
『4℃』。
……出た。
大学生が彼女へのプレゼントに選ぶブランドNo.1。
値段もそこそこ、知名度抜群。
でも、貰っても正直反応に困るやつ。
「えっ、私に? 嬉しい……! 開けていい?」
私は演技力全開で驚いて見せる。
Mode: ON。
瞳孔を開いて、頬を紅潮させ、手には少しの震えを演じさせる。
「プレゼントを貰い慣れていない純朴な彼女」を演出。
箱を開ける。
中には、シルバーのネックレスが入っていた。
小さなハートのチャームがついている。
デザイン……古い。
というか、無難すぎて個性ゼロ。
量産型大学生の量産型プレゼント。
「似合うかな……と思って」
智也くんがモジモジしている。
視線が泳いでいる。自信がないくせに、期待している目。
私の脳内CPUが高速回転を始める。
【商品名:4℃ シルバーネックレス ハートモチーフ 2025年モデル】
【定価:58,000円】
【メルカリ相場(新品・未使用):25,000円~38,000円】
【買取専門店相場:15,000円~18,000円】
……チッ。
シルバーかよ。
18金(K18)なら質屋でもっと高く売れるのに。
シルバーは酸化するから値崩れが早いんだよな。
早めに売り抜けないと資産価値がゴミになる。
でも、顔には出さない。
私はネックレスを取り出し、胸元に当ててみせた。
「わあ……! 可愛い! すっごく可愛い!」
声をワントーン上げる。黄色い声援。
「こんな高いの、悪いよぉ……。私、何も用意してないのに……」
申し訳なさそうに眉を下げる。
これが大事だ。「金目当てじゃないアピール」。
これを挟むことで、次の課金へのハードルを下げるのだ。
「いいんだ! 僕があげたくて選んだから!」
智也くんが食い気味に言う。
「セナちゃんが喜んでくれるなら、それが僕へのプレゼントだから!」
……名言出ました。
「君の笑顔がプレゼント」。
昭和のアイドルソングかよ。
でも、ありがとう。
その言葉、録音して証拠に残しておきたい。
「後で売っても文句言いません」という同意とみなします。
「ありがとう、智也くん。……つけてくれる?」
背中を向けて、髪をかき上げる。
うなじを見せる。
これはサービス料込みだ。
彼の手が震えながら、私の首元に回る。
指先が肌に触れる。冷たくて、湿っている。
ゾワッとする感覚を、「恥ずかしい」という演技でごまかす。
「……できた」
「えへへ、どう? 似合う?」
振り返って、首をかしげる。
「う、うん! めっちゃ似合う! 天使みたいだ!」
智也くんが顔を真っ赤にして叫ぶ。
天使ねぇ。
天使の首にかかっているのは、君のバイト代三日分の労働の結晶だよ。
そしてそれは、来週には私の推しのグッズ(アクリルスタンド全種セット)に変わる予定だ。
錬金術だね。
✎ܚ
デート中、私はネックレスを肌身離さず(演技で)大切に扱った。
何度も手で触れて、「嬉しいな」と呟く。
智也くんはその度に、昇天しそうな顔をしている。
単純な生き物だ。
投資に対するリターン(私の笑顔)だけで、ここまで幸福になれるなんて。
ある意味、コスパがいいのかもしれない。
一方で、私の頭の中は別の計算で忙しかった。
このネックレス、箱と保証書はあるけど、ショッパー(紙袋)が少し折れちゃったな。
メルカリに出す時、「ショッパー付き」だと千円高く売れるのに。
のちのち売ることを考えるなら、プレゼントは包装状態のまま渡してほしい。
「開ける楽しみ」とかいらないから、資産価値を維持したまま納品してくれ。
お台場の観覧車の中。
密室。
夜景が綺麗だ。
この時間のこれ、オプション料金対象外なんだよな。
「景色を楽しむ時間」としてカウントされるけど、実際は拘束時間だ。
割に合わない。
「あのさ、セナちゃん」
頂上に差し掛かったところで、智也くんが真剣な顔をした。
嫌な予感。
この空気、告白じゃないよね?
まだ二回目だよ? 早くない?
規約違反だよ?
「僕、もっとバイト頑張るから」
彼が拳を握りしめる。
「セナちゃんにもっと喜んでもらえるように、来月はシフト倍にするから! だから……また会ってくれる?」
……ああ、そっちか。
太客宣言。
優良顧客(ロイヤルカスタマー)への昇格願い。
私は心の中でガッツポーズをした。
シフト倍増=収入倍増。
智也くんの命(時間)が、きれいなお金に変わって私の口座に振り込まれる。
「智也くん……」
私は彼の手を両手で包み込んだ。
「無理しないでね? でも……智也くんが頑張ってくれるなら、私も待ってる」
潤んだ瞳で見つめる。
殺傷能力Sランクの視線。
「うん! 頑張る! 絶対頑張る!」
彼が叫ぶ。
観覧車が揺れるほどうなずく。
かわいそうに。
彼は完全に「課金沼」にハマった。
ソシャゲのガチャと同じだ。
「セナ」というSSRキャラを手に入れた錯覚に陥っているけど、実際はレンタル(期間限定使用権)でしかない。
課金を止めた瞬間、サービスは終了する。
でも、今はまだ夢を見せてあげる。
それが私の仕事(あくい)だから。
✎ܚ
帰宅後。
私は自室(四畳半ぼろアパート)のちゃぶ台に、今日の戦利品を並べた。
ネックレス、箱、保証書、折れたショッパー。
スマホで撮影タイム。
背景には白い布(百均)を敷いて、照明(デスクライト)を当てる。
角度を変えて、一番高く見えるように撮る。
プロの仕事だ。
【出品】
タイトル:【新品未使用】4℃ ハートネックレス 2024 ギフトに最適♡
説明文:頂き物ですが、金属アレルギーで使えないため出品します(涙)。大切に使ってくださる方にお譲りしたいです。
価格:19,800円(送料込み)
ポチッ。
出品完了。
五分後。
『購入されました!』の通知。
早っ!
さすが4℃、流動性が高い。
私はネックレスをプチプチで梱包しながら、カップ麺(今日は贅沢にチャーシュー入り)にお湯を注いだ。
一万九千八百円。
手数料と送料引いて、一万七千円の利益。
今日のデート代と合わせて、三万円オーバー。
「……うんま」
ズルズルと麺をすする。
喉を通る熱いスープが、冷え切った心を温めてくれる。
智也くんの純情が、私の胃袋と、推しのグッズ代に変わった瞬間だ。
悪いことしてる?
知るかよ。
こっちは生きるのに必死なんだ。
彼だって、夢見れたんだからウィンウィンでしょ。
ふと、梱包したネックレスを見る。
「似合うかな」と言った彼の不安げな顔がよぎる。
一瞬、胸がチクリとした。
……いや、気のせいだ。
これは胸焼けだ。チャーシューの脂が重かっただけだ。
私はコンビニ袋にゴミを突っ込み、明日の大学の支度を始めた。
明日は智也くんの隣の席。
絶対に見られてはいけない「共犯者」の顔をして、また彼から「セナちゃん情報」を引き出さなきゃいけない。
忙しい。
二重生活は、体力勝負だ。
(つづく)
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