【13】
薄池高校……二年A組の学級委員長――倉持水地は手強い。
その事実を把握できたことと引き換えに、オレは転校二日目を犠牲にしてしまった。
けれど思う……これは犠牲、ではなく耐え抜いた、と言えるのではないかと。
早い話が、倉持学級委員長側からしてみると、オレが彼女をあまり警戒できなかった……出来ていなかった、からこそ、二日目はオレを追い込む最大のチャンスだった、とも言える。
オレを追い込む――
詰ませる――最大のチャンスだった。
それほどの強敵。
しかし……そうはならなかった。これは、彼女としては大失敗だろう。
いくら有能な強敵であろうと……所詮は高校生。
あらかじめ、強敵だと知ってさえいれば――――立ち向かう方法など、いくらでもあるのだ。
「あら? 白宮くんと喜田くん、今日は仲良く一緒に下校? 私も一緒させてもらっても良いかしら?」
転校三日目の放課後、案の定、オレと喜田くんに絡んできた倉持学級委員長。
余程、オレたちの動きを制限したいらしい。いや? 監視かな?
どちらにせよ、今後はそう易々と縛られない。
せめて放課後くらいは、自由にさせてもらおう。
「良いけど、オレたち今から銭湯に行くんだけど、一緒に入る?」
「へ?」きょとんと、目を点にする倉持学級委員長。「この時間から……銭湯、ですか?」
「そう、銭湯。何を隠そう、オレたちは生粋の銭湯マニアでもあったのだ!!」
じゃじゃーんと決めポーズ付きで、そんなことを言うオレだった。
銭湯マニア? 何それ? まぁ、お風呂が好きなのは間違ってはいないのだけれど。
とにかく、真偽は置いておいて、オレは続ける。
「男同士、友となった以上、裸の付き合いは必須だと思ってね」
「は……裸の付き合い!?」
「………………」
めちゃくちゃ顔を赤くしてるんだが……一体何を想像しているんだ? この子は……。
まぁ、付けそうな隙があるのだから、付いておくことにするか。
「男二人、裸一貫。何も包み隠すことなく、お互いの気持ちを理解し合おうと試みたい訳だ! 何故なら銭湯には、心を解放させる作用があるのだから!!」
「包み隠さず……?」
「そう――間違いだって……起こるかもな」
「間違いっ!?」
倉持学級委員長の表情が真っ赤になっている。
なるほどなるほど。やはり、何もかも知っているような顔をしていても、心はピュアな女子高生だったみたいだな。
「ま、間違いって……君はボクと一体何をする気で……」片や、喜田くんは喜多くんで、何やらおしりを抑えながら、真っ青な表情をしていた。
嘘に決まってるだろう……君まで本気にしてどうする。
さて……仕上げだ。
「そんな訳で、君はどうする? 倉持学級委員長! オレと喜田くんと、裸と裸の付き合いをするのかい!?」
「裸の付き合いっ!? す、する訳ないでしょ!! そんな如何わしいこと!!」真っ赤になって拒否してきた。
はい、言質取りました。
「では、そういうことで。行くぞ、喜田くん」
「う、うん……!」
「あっ……!」しまった――――倉持学級委員長は、そんな心境を物語る表情をして見せた。
坊主頭であろうと、女子は女子。
彼女があらゆる手を使って、オレたちの行く手を阻もうと言うのなら、彼女に手出しできない領域を作り出せば良い。
性別の壁というものは、価値観は抜きにして、現実的に存在するのだから。
男と男のコンビ、だからこそ――――打てる手は、沢山ある。
「あ、そうそう。オレと喜田くんは、今後の放課後もこんな感じであちこち行く予定だから。男同士、ならではの場所にな」
「くっ……!」歯痒そうに下唇を噛みしめている倉持学級委員長。
「学校生活では、存分に遊んであげるから。プライベートへの干渉は、控えてくれ。じゃあな、学級委員長、また明日」
オレは、散々やられ放題であった昨日の仕返しと言わんばかりに、ウインク混じりのサヨナラの挨拶をした後、退室した。
早い話が煽った。
二十六歳の男が、高校二年生の女子相手に、盛大な煽りをしてみせた。
大丈夫。今のオレは、高校二年生の白宮 龍正であるのだから。
結構、潜入捜査でキャラ付けをするに当たって、感情移入をしてしまうタイプなんだよ、オレは。
役に没頭してしまうんだ。
普段のオレは、こんな大人気なくて、情けない奴じゃないからな?
いや本当に。
マジで。
年下女子に良いようにやられたことの腹いせに、性別の壁という卑怯な価値観を武器にして叩きのめした後、心からざまぁみろと煽るような糞人間では、オレは決してないからな?
――という旨を、下校中に喜田くんへ説明してみたものの……。
「いや……あの煽りはどうみても、一転の曇りなくあなた自身の心がこもっていたものでしょう……。復讐心という名の、心が……」
見事に看破されてしまっていた。
復讐心って……。
……はい、そうです……アレは、演技どうこう関係なく、オレ自身の心から突然湧いてきた煽りでした。
二十六歳の男が、女子高生相手に腹いせしたら正真正銘の煽り以外の何物でもありませんでした。
オレは糞人間です。ごめんなさい。
皆さん、こんな大人にはならないでください。
「まぁまぁ、そんな風に自分を卑下しなくても大丈夫ですよ。おかげでホラ、ボクたちは今、学級委員長の監視の目から解放されている訳なんですから。胸張って良いんですよ」
喜田くんに励まされた。
男子高校生に励まされる、二十六歳の男というのもなかなかに胸にくるものがあるな……。
だかしかし、彼の言う通りでもある。
現に今、オレたちはフリーの身。何の縛りもない身だ。
自由に動ける貴重な時間。
去り際に、あんなことを言ってみたは良いものの。あの頭の切れる学級委員長のことだ、明日には早々手を打ってくることだろう。
この作戦も、明日も通用するとは限らない。
ならば――動ける時に、動いておくべきだ。
「……と、なると、善は急げだ」
校舎を出て、しばらく歩いた。
後ろを振り返っても、校舎はもう見えない。
つけられている様子もない。
周りに薄池高校生の姿もない。
よし――――
「走るぞ喜田くん、ついて来い」
「え? ちょっと、どうしたの急に!」
突然走り出したオレに少し遅れる形で、喜田くんも走り出す。
なに、本気で走ったりはしないさ。流石のオレも、そこまで大人気ない真似はしない。
彼の走るスピードに合わせて、可能な限り速く走ることぐらいできる。
「ひぃ……ちょっ……速いって! 白宮どん!」
…………まぁ、少々喜田くんには、自身の肺活量の限界に挑戦してもらうことにはなるのだが。
「ど、どこへ……行くんですか!?」
どこへ行くのか?
そんなもの、決まっているだろう。
不登校生――――赤神 円の家までだよ。
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