番外編② 美南ちゃんの恋人探し

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「いいか、お前ら!覚悟は出来てるな!?ここで怯んでる奴いたらぶっ飛ばすぞ!!」


「んなわけねーだろ!こっちは全員潰すつもりだ!」


「有り金は全部かき集めろ!なんなら資材は他のところから奪え!」


「百万円は俺らのものだぁぁ!」



今日は珍しくクラス全員が揃い、皆白熱した討論(?)を繰り広げている。



「えー……皆さん。ご承知のとおりだと思いますが、暴力行為は失格となります。勿論強奪は論外ですよー」


そんな怒号が飛び交う中、終始冷静な担任の先生は教壇の脇に立って静かに突っ込む。


その佇まいは小柄だけど、なかなかの貫禄があり、私は感心しながらその光景を眺めていた。




季節は灼熱の夏が通り過ぎ、紅葉が色付き始める頃。

今年もやってきた、文化祭シーズン。


けど、ここは荒れに荒れまくったヤンキー校なので、殆どの生徒は文化祭に対する熱がなく、屋台は申し訳程度にしか出ない。


それどころか、ここぞとばかりに他校生の不良達が押し寄せてきて、毎度実力試しの格闘大会となってしまう。


それを見兼ねた校長先生は、今年こそは文化祭を盛り上げようと、ある大きな決断をした。



それは、出し物で最高売上を出したクラスには賞金百万円を贈呈するとのこと。


しかも、その百万円は宝くじで当てたもので、そのまま生徒に捧げるというから驚きだ。  


その甲斐あって、全校生徒は今までにない程一致団結し、皆本気で文化祭を盛り上げようと一念発起している。


こんなヤンキー校にそこまで献身的になれるなんて、なんて素晴らしい人なんだろうと。

尊敬の念を抱きながら、私は黒板に書き出された出し物リストに目を向けた。



鉄板屋、お化け屋敷、射的屋、喫茶店などなど。


暴力行為が禁止されているため、出てくる案は皆健全なものばかり。


これでようやく普通の文化祭を味わえると思うと、期待値がどんどんと膨らみ、思わず頬が緩んでしまう。



「それでは、これから出し物の投票にうつります。皆さん一人一票ですよ。不正はしないで下さいね」


それから、ある程度案が出揃ったところで、先生は白い紙を配った後にやんわりと念を押してきた。



うーん。


どうしよう。



投票用紙が回ってきて、私は黒板と睨めっこしながら頭をフル回転させる。



鉄板屋は面白そうだけど、煙が気になるし。

お化け屋敷は暫く控えたいし。

射的屋は珍しいから興味を引くけど、そのうち物じゃないものが標的にされそうで少し怖いし。


そうなると、ここは無難に喫茶店がいいかなと。

  


答えが決まった私はスラスラとペンを走らせ、投票箱に票を入れた。




__十分後。



「それでは、うちのクラスの出し物はBAR風カフェに決定しました」


開票の結果、圧倒的多数で喫茶店に票が入り、その中で何をやるか討論したところ、BARとカフェを融合させた出し物に決まった。


その理由が、お酒を飲める場所を作りたいという、法律も規則もガン無視の意見が大多数を占め、当然ながら許可なんて出るはずもなく。


せめて雰囲気だけでもということでカフェに落ち着いた。



BAR風カフェ……。


そもそもバーに行ったことがないので詳しいことはよく分からないけど、きっとお洒落な雰囲気になると思う。


カクテルに真似たジュースを作ってみたり、カウンターを設置してみたり、ジャズを流してみたりとかして、憧れていた大人の世界に一歩踏み出せるかもしれない。



そう思ってたのに。







「……………なんか、思ってたのと違う」




文化祭当日。

出来上がった内装を前に、私は呆然と立ち尽くしながらポツリとそう呟く。


「そう?あたしはイメージ通りだけど」


そんな絶望する私とは裏腹に。

乗り気な様子で満足気に教室内を見渡す美南。 


これで何故そんなに喜べるのか不思議に感じながら、改めて自分も教室内に目を向けた。



完成されたのは、まるで無法地帯にある不良の溜まり場のようなお店。


教室内は壁もテーブルも黒一色で統一され、照明は妖しさ満載な紫色のライト。


壁にはドクロマークや、ナイフが突き刺さったダーツや、暴走族が掲げるような旗が飾られている他。


高校であってはならない空のビール・焼酎瓶がずらりと壁一面に並べられ、落ち着いた雰囲気とはかなりかけ離れた内装に、理想がガラガラと音を立てて崩れていく。



「やだ、私もう帰る!ここに居るだけで怖いよ!」


これでは、あっという間に不良達が集まりそうで、文化祭を楽しむどころではくなった私は、教室を本気で出ようと一歩足を踏み出す。


「大丈夫だよ。莉子は櫂理君の彼女だし、雨宮君と圭君もいるし。後ろ盾最強過ぎだから堂々としてればいいじゃん」


けど、それを許さないと。

すかさず美南に腕を掴まれてしまい、逃げ道を塞がれた。


「いい、莉子。ここは戦場だよ。普段ヤンキー共しかいない場所に堅気が来るんだよ。こんなまたとないチャンスをみすみす逃すなんて、絶対にあり得ないから!」


そして、急に血相を変えて鬼気迫ってくる美南の圧に押され、私は唖然とした。


「で、でも美南さん。こんなヤンキー校にまともな人が来るとは到底思えな……」


「諦めたらそこで試合終了だよ!」


それから、冷静に突っ込もうとしたところ、某漫画のセリフで語尾強く押し切られてしまい、私はこれ以上何も言えなくなってしまう。






「……は?前の学校の奴ら?」


「うん。雨宮君の前の学校ここからそんなに離れてないでしょ。だから、来るのかなーて。ていうか、誰か良い人いたら紹介して」



何を思い立ったのか。

既に売り物のジュースで一杯始めてる雨宮君の隣に座り、猫なで声でおねだりをする美南。


なんだかその様が、やさぐれたOLと少し悪なお兄さんがお酒を飲み交わしているようで、私は遠目で二人を見守った。



「まあ……来るかもしれないけど、ここの奴らと大して変わらねーぞ。それと、あんたの出会いサポートするつもりないから」


「ちっ、使えねー」


すると、期待を込めた表情から一変。

雨宮君から一刀両断され、美南の表情がひどく歪み、本音が駄々漏れてる。


「とりあえず今年は出店も多いし、イベントも多そうだから、一緒に回りながら出会いを探そう」


そんな彼女をフォローするため、私は急いで彼女の元に駆け寄ると、笑顔で肩に手を置いた。



「……確かに。莉子と歩いたら目立ちそうだよね」


それから暫く私の顔を凝視した後、ポツリと呟いた美南の目が、まるで獲物を狙った鷹の如くキラリと光る。



美南さん、なんか怖いです。



そのただならぬ気迫に押され、私は思わず生唾を飲み込む。



こうして、彼女の勢いに押されるまま、文化祭という名の出会い探しが今幕を開けようとしたのだった。

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