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◇◇◇
「…………うっ」
徐々に意識が覚醒していき、ふと目を覚ますと、目の前には真っ暗な見慣れない天井が広がっていた。
「ここは……?」
それから、ゆっくりと体を起こそうとするも、両手首を紐で結ばれていて上手く身動きが取れない。
私は諦めて辺りを見渡すと、ここは何かの倉庫なのか。
所々にドラム缶や大きな木箱が積み重なっていて、少し埃っぽい。
電気はなく、窓から入り込む陽の光だけが唯一の明るさで、倉庫の奥の方は深い闇が続いていた。
……ああ、そっか。
私襲われたんだ。
次第に思考回路が動き始め、これまでの記憶が徐々に蘇る。
あの時、人気のない所に連れられ、何者かに気絶させられた。
何故そんな目に遭うのか今でもよく分からないけど、その鍵となるのがあの”落とし物”なのかもしれない。
まさか、茶色い封筒一つでこんな目に遭うなんて。
それ程に私はとんでもない物を拾ってしまったのかと思うと、じわりじわりと恐怖が襲ってくる。
「あの、誰かいませんか!?」
とにかく、こんな知らない場所で一人取り残されても怖いので、私は藁をも縋る思いで叫ぶも、待てど暮らせど一向に反応がない。
すると、暫くしてから倉庫の扉が開き、咄嗟に振り返ると、そこにはあの時私を引き連れた目が細い男子生徒と見知らぬ成人男性二人が立っていた。
「……まったく、厄介な奴に拾われたな」
私の姿を見るや否や、男は深いため息を吐くと、徐にこちらの方に近付いてくる。
「せっかく商売繁盛していたのに、教師の奴らにバレたら全てが台無しになるだろ」
そして、まだ何も聞いていないのに、一人でぶつぶつと呟きながら、虚な目で私を凝視してきた。
それはまるで魂のない人形のように、その瞳には光が全く宿っておらず、それが不気味に感じ、私は身を捩らせて後退りをする。
けど、あっという間に追いつかれてしまい、男は私の前で片膝をつくと、無理矢理顎を引き上げてきた。
「あなたは誰なの?何でこんなことするの?というか、あの封筒の中身は何?」
何か言われる前にこちらから質問しようと私は捲し立てると、男は暫く黙り込んでから怪しげに口元を緩ませる。
「覚醒剤。だから、教師連中にチクられると困るんだよ。一発でムショ行きになるから。しかも、君はあの宇佐美櫂理の姉だろ?余計分が悪いんだよね」
それから、まるでこの状況を楽しんでいるような目で微笑んできた。
これでようやく全てのことが分かった。
そして、自分の身が危ないということも。
この人は私を消そうとしている。
このまま何処かに葬り去られるか、あるいは……
「……やだ、櫂理君……」
直感で分かる命の危険。
これまでに感じたことのない押し潰されそうな恐怖に、思わず彼の名前を口にする。
いつも校内で危ない目に遭いそうになった時は、真っ先に駆けつけてくれた。
けど、ここはもう彼のテリトリーではない。
櫂理君が側にいないことがこんなにも怖いなんて。
私はどれ程彼に守られていたのか、改めてここで痛感する。
でも、もう遅い。
どんなに叫んでも、彼にこの声は届かない。
それでも、私はまだ諦めたくなくて。
例え望みが限りなくゼロになろうとしても、必死で彼を追い求める。
「櫂理君っ!」
そんな気持ちを込めて、私は力の限り叫んだ。
その時、外から車の急ブレーキ音が聞こえ、まさかと思い扉の方に目を向けた直後。
「莉子!」
黒色のセダン車から櫂理君が降りてきて、こちらの方に駆け寄ってくる。
それに怖気付いた男は軽い悲鳴をあげると、咄嗟に体格がいい赤シャツ姿の男性の後ろに隠れた。
「おい。あいつらは一体なんだ……」
突然盾にされた男性は訳が分からないといった表情で、後ろに隠れている男子生徒に目を向けた矢先。
櫂理君の飛び蹴りが成人男性のお腹に直撃し、その勢いで男子生徒諸共後ろに飛んでいき、二人折り重なって盛大に地面に倒れた。
「な、なんだこのガキは!?」
その光景に怯んだもう一人の成人男性は一瞬たじろぐも、直ぐに体勢を整えて櫂理君に襲いかかる。
けど、即座に反応した櫂理君は振り向きざま男の首元に肘鉄をくらわせ、男は痛みに悶えてその場でしゃがみ込んでしまった。
「莉子、大丈夫か!?」
隙を見て私の元へ駆け付けてくれた櫂理君。
その姿がとても眩しく見えて、今すぐにでも彼の胸に飛び込みたいけど、生憎手足を拘束されていて何も出来ない。
そんな私の体を両手ですくい上げ、櫂理君はお姫様抱っこをしながら私を一旦外へと避難させてくれた。
「莉子さん、怪我はない?」
「今縄切ってやるから待ってろ」
そして、入り口前で立っていた圭君と雨宮君の姿を見た途端、緊張の糸が解け、意図せず涙がぽろぽろと溢れ落ちてくる。
「みんな、来てくれてありがとう。凄く怖かった……」
それからは止めどなく涙が溢れてきて、私は嗚咽混じりに感謝の言葉を口にした。
「…………暫くの間莉子を頼む」
すると、いつもなら真っ先に私を抱き締めてくれるのに、何故か微動だにしない櫂理君は静かな口調でそう呟く。
そんな彼の挙動に私は不安を覚え、顔を覗き込んでみると、思わず背中がぞくりと震えた。
それは、今までに見たことがない程の冷たい表情。
その瞳の奥からは並ならぬ憎悪が滲み出ていて、ついさっきまで希望の光が見えていたのに、今では黒いオーラが取り巻いている。
…………怒ってる。
おそらく、過去一番に。
そう確信した私は、生唾を飲み込む。
「ちょっとあいつら殺してくる」
それから、その場で固まる私を他所に櫂理君は軽い口調でそう言い残すと、踵を返して倉庫の中へと戻っていく。
そして、扉が閉まってから数秒後。
倉庫からは激しい物音と共に断末魔のような叫び声が複数聞こえてきて、私達は何も聞かなかったことにしたのだった。
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