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◇◇◇





学校からタクシーを使って十分程走り、辿り着いた場所は市街地の外れにある寂れた雑居ビルの前。


そこに表札は何もなく、一見すると何の建物なのか全く分からない。


だから、本当にここが暴力団事務所で合っているのか確証は持てないけど、それは実際行って確かめればいいと。

俺は躊躇うことなく、入り口に続く階段を登り、事務所の扉を開いた。



「……あ?何だお前ら?」


扉を開いてまず視界に入ったのは、入り口脇に設置されたソファーに座るガタイのいい黒色スーツ姿の男が数名。


何やら商談でもしていたのか、大きな木彫のテーブルの上には書類がバラけてあり、その横には札束が入った封筒がいくつか置かれていた。


「おい。ナンバー893の黒い車が今どこにいるか教えろ」


けど、それらには目もくれず、俺は単刀直入にここへ来た目的を告げると、この場の空気が一変する。


「その制服はあのヤンキー校の生徒か。もしかして、例の物が欲しいのか?それなら、まず順序ってものが……」


そして、言い終わる前にスーツ男の手がこちらに伸びてきた矢先。

俺はその手を払い、問答無用で男の顔に拳を一発お見舞した。


不意をつかれた男は反動で壁まで吹っ飛び、周りにいたヤクザ達が一斉に立ち上がる。


「このクソガキ!死にてえのか!?ナメ腐るのもいい加減にしろっ!」


それから、割れんばかりの怒号が飛び、今度は二人掛りで向かってくるも。

間髪入れず、脇に立っていた優星はガタイのいい男達をまとめて飛び膝蹴りで倒す。


その直後、ドヤ顔をこちらに向けてきて、二度目の挑発に怒りの矛先が一気にこの男へと切り替わった。



「おい、たかが二人蹴り倒しただけで何イキってんだ?」


「別に。ただ、どうせやるなら楽しんだ方がいいだろ?」


「は?」


何言ってんだ、こいつ。


「つまり、あれか?虫を潰した数競おうってのか?」


こんな状況下で勝負を吹っ掛けてくるとは、やっぱりこいつも相当イカれてる。



………………けど、悪くない。



その時、始めに殴った男が起き上がり、近くにあった鉄棒を握ってこちら目掛けて勢い良く振りかざしてきた。


しかし、すんでのところでかわした俺は、回し蹴りで首の後ろを蹴りつけると、男は完全に意識を失いその場で倒れ込む。


「やるならここまでしなきゃ数に入んねーぞ」


「ああ、分かった」


そして、負けじと俺も挑発的な態度をとると、優星は余裕な表情を崩すことなく頷き、その反応が益々忌々しい。



すると、事務所の外から複数の足音が聞こえてくると、今度はざっと十人以上はいるヤクザ達が、各々の凶器を携えて入り口になだれ込んできた。


どうやら、大人げなく高校生三人相手に本気で潰しにかかるらしい。


けど、幾ら数がいたとしても、この限られた部屋の狭さでは行動が限られる。


つまり、今からここは俺らのということ。





「そもそも、てめえ莉子のことが好きなのか!?いちいち癪に障るんだよ!」


「お前の独占欲が強過ぎなんだ。あまりしつこいと、そのうちウザがれるぞ」


「莉子が俺を突き放すわけねーだろ!俺は莉子にとって大切な弟だ!」


「それ自分で言ってて悲しくないのか?」



次々と襲い掛かってくるヤクザ共の攻撃を交わしながら、優星と倒す数を競い合っているうちに、段々と本気でキレ始め、俺は近くにあった重厚そうな一人掛け用ソファーを持ち上げる。


「やっぱり、お前ムカつく。何と言われようが、莉子に触れていいのは俺だけだ!」


そして、優星目掛けてソファーを勢い良く投げつけたら、あっさりと交わされ、その代わり近くにいたヤクザ数名が犠牲となり、ついでに壁も壊れた。



「その暴力的な行為なんとかしろ。莉子は平和主義者なんだから、それだと一生彼女の負担になるぞ」


すると、相変わらず落ち着いた口調でとても痛いところを突かれ、俺は一瞬言葉に詰まる。


その隙を狙って、優星は近くにあったロッカーを持ち上げると、斧のように振り回してきた。


その威力は絶大で。

攻撃を交わす度に取り巻くヤクザ共が巻き添いをくらい、次第に俺達の周りには倒れた人の山がどんどん増えていく。


「てめえも十分破壊的だ!全然人のこと言えねーだろ!」


いい加減鬱陶しくなってきたので、俺は向かってくるロッカーを思いっきり蹴り飛ばしたら、そのまま窓を突き破り、外へと放り出された。


それからは、ヤクザ達とのやり合いではなく、もはやただの優星との喧嘩となり、周囲からいくらどやされようが、刃物が飛んでこようが関係なかった。



その時、突然部屋中に鼓膜が破れそうになる程の銃声音が響き、俺と優星の動きがそこで止まる。



「お前らいい加減にしろ。ここを何処だと思ってるんだ?喧嘩なら他所でやれ」


振り向くと、目の前にはエラい風格がある白髪の爺さんが銃口をこちらに向けて突っ立っていた。


それを合図に、周囲の奴らも腰から拳銃を取り出し、銃口をこちらに向けてくる。


流石にこれだけの飛び道具相手に太刀打ち出来るはずもなく、俺達は表情を歪ませてその場で大人しくなった。




「……まったく、つくづく呆れるな」



すると、何処からか圭の静かな声が聞こえた途端。

いつの間にやら組長らしき爺さんの背後に立っていて、拳銃を持つ手を掴むと、そのまま爺さんの腕を変な方向へと折り曲げた。


「ぎゃああああああ!」


突然腕を折られ、爺さんは痛みで絶叫すると、その声に周りのヤクザ共が怯む。


その隙に圭は床に落ちた拳銃を拾い上げ、痛みに悶える爺さんの首に腕を回し動きを封じると、そのまま銃口を爺さんのこめかみにあてた。


「ねえ、車の所在だけ教えてくれればいいんだけど。早くしないと、この人撃つよ?」


そして、いつもの爽やかな笑顔を浮かべながら、カチャリと拳銃のレバーを引く。


その瞬間爺さんの表情は更に青ざめ、小さな悲鳴が聞こえた。


「おおおお前ら!すぐ連絡しろ!なんなら、こいつら、そこに送り届けてやれっ!!」


それから、声を震わせながら指示をすると、周囲のヤクザ共は拳銃を直ぐに下ろし、慌てて電話を掛け始めた。




その光景を見て、改めて俺は心の底から思う。



圭を絶対に怒らせてはいけないなと。

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