3

◇◇◇





「…………うう」



「雨宮君、大丈夫!?」



それから数十分後。


このまま目が覚めなければ病院に連れていこうかと本気で考え始めていた矢先。


雨宮君の小さな唸り声が聞こえ、即座に反応した私は彼の側へと近寄る。



「…………ここは?」


「保健室だよ。傷の方は粗方治療したけど、頭とか大丈夫?」


未だ意識が朦朧としているのか。

起き上がっても焦点がいまいち合わない雨宮君のことが心配になり、顔を除きこもうとした途端。

脇に立っていた櫂理君に腕を軽く掴まれ、無理矢理引き剥がされた。



「……で、結局あんた俺に何の恨みがあるわけ?」


そして、あれだけ激しい喧嘩をしたにも関わらず。

まるで時が一時間前に戻ったように、何事もなかったような表情で尋ねる櫂理君の神経に再び驚かされる。



「半年前ぐらいの話だ。親戚の家に長期滞在することになった時、たまたまこの近くの広場で絵を描いてたんだよ」



「「………は?」」



一体どれ程の理由かと思いきや。

話の出だしがあまりにも斜め上を行き、私達は目が点になった。


「コンクールに出す作品で、数ヶ月程の時間を費やした大作だった。だから、気持ちを高めるためにも最後の仕上げは外でやろうと思ったのに」


そんな私達に構うことなく、説明を続ける雨宮君の声が段々と怒りで震えてくる。


その時点で、私はもう嫌な予感しかしない。


「トイレに行こうと少し席を外して戻ったら、いつの間にかそこでヤンキー達の喧嘩が始まってたんだよ。その中にお前がいた。そして、俺の絵もろともその場にいた奴ら含め全てを破壊していったんだ」



……ああ、やっぱり。


そんな気はしていたけど、やっぱり予想を裏切らない。



「櫂理君謝って。今すぐここで」


「なんでだよ。そんな記憶すらねーよ」


「いいから!」


まず、破壊神のような雨宮君がそんな崇高な趣味をお持ちだったことにかなり驚いたけど。

何はともあれ彼の話のとおりであれば、100%櫂理君が悪い。


だから、少し強めの口調で促すと、櫂理君は舌打ちをして渋々頭を下げてくれた。



「あの、雨宮君本当にごめんね。私からも謝る……」


「いや。こいつを殴れたからもういい。それに、弱点も見つけたし」


当の本人は全く反省していないので、改めて代わりに頭を下げようとした矢先。


雨宮君は私の言葉を遮り、何故か不敵な笑みを浮かべる。



__次の瞬間。



突然雨宮君に腕を引っ張られ、バランスを崩した私は小さな悲鳴をあげて彼の膝の上に倒れ込んでしまう。


すると、雨宮君は私の肩に手を乗せると、そのまま優しく引き寄せてきた。



「お前のねーちゃん、好きにさせてもらうぞ」


そして、私のこめかみに軽くキスをすると、挑発的な目で櫂理君を見上げた。



そこから暫しの間流れる妙な沈黙。



その時、不意に櫂理君は私の両肩を掴むと、勢い良く彼から引き剥がした瞬間、寝ている雨宮君を強く蹴り付けた。


「か、櫂理君!?」


まさか、ここで再び喧嘩が勃発するとは思ってもみなかったので、私は驚きのあまりその場で固まる。



「てめえ、もう一回表出ろ。今度は本気で潰す」


それから胸ぐらを掴み、倒れた雨宮君を無理矢理起こすと、血走った目で彼を睨み付けた。


「上等だよクソガキ。何度でも付き合ってやるから」


そんな彼の挑発を、ニヒルな笑いで受け止める雨宮君。 



こままだと本当に第二回戦が繰り広げられそうで、ついに堪忍袋の尾が切れた私は、櫂理君と雨宮君の間に無理矢理割って入る。


「もう、二人ともいい加減にしなさい!!」


そして、怒りにまかせ、割れんばかりの声で思いっきり彼等を怒鳴りつけたのだった。

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