第2話 ヤンキー校の二大巨頭

1

「櫂理君、お昼ごはん出来たよ。いい加減起きてー」


休日の正午。

いつまで経っても起きてこない弟に痺れを切らして、私は未だ夢の中にいる櫂理君の体を思いっきり揺さぶる。


「……うーん。あと五分……」


そうぼやいた後、櫂理君は直ぐにまた夢の中に陥り、再びすやすやと静かに寝息を立て始めた。


櫂理君の艶やかな黒髪が、カーテンの隙間から差し込む太陽の光に照らされ、つやつやと輝く。


そして、肌は透き通るように白く綺麗で、顎は私よりもほっそりしていて、睫毛がお人形さんのように長い。


まだあどけなさが残るその寝顔はまるで天使のようで、昨日大暴れした人物だとは到底思えない。



とりあえず、このまま放置するとずっと起きないので、私は心を鬼にして、櫂理君の掛け布団を勢い良く引っ剥がした。


「だめ。ご飯冷めちゃうから、早く起きて!」


そう厳しく一括すると、櫂理君はうっすら目を開き、少し吊り気味の透き通った大きな瞳が、ぼんやりと私の姿を捉える。


「……おはよう。莉子」


それから、やんわり口元を緩ませると、少し掠れた声で遅めの挨拶をしてきたのだった。





櫂理君を起こした後、少しだけ冷めてしまったビーフシチューを温め直すため火にかける。 


今日は父親はゴルフ接待で、母親は休日出勤なので、家にいるのは私と櫂理君だけ。

だから、家事全般を担うことになり、今日は一日忙しい。


以前両親がいない日は櫂理君と二人で分担しようという話になったけど、試しに掃除を任せてみたら力が強いせいか、ことごとく物が壊れるので、それ以降は何もやらせないことにした。




「美味そー。俺のは肉多めに入れて」


コトコトとビーフシチューが良い具合に温まってきた頃。

ようやく起きてきた櫂理君に後ろから突然抱き締められ、私は危うくお玉を落としそうになった。


「分かった。でも、食べる前にちゃんと顔は洗ってね」


「……んー。暫くこうしてから」


どうやら、未だ頭は覚めていないようで。

櫂理君は私を抱き締めたまま肩に顔を埋めると、そのままうたた寝をし始める。


本当に、こうしてみると大きな子供にしか見えない。

身長は180近くあるのに、背中を丸めて甘えられると幼い頃の櫂理君を思い出し、母性本能を大いにくすぐられる。



「もう櫂理君。これじゃあご飯の支度が出来ない……」



ピンポーン。



すると、玄関のチャイム音が突如鳴り出し、この時間帯では珍しい来客に、私はインターホンのモニターを確認すると、そこには私服姿の圭君が立っていた。





「いらっしゃい圭君。どうぞ上がって」


パジャマ姿の櫂理君は応対する気が全くなさそうなので、代わりに私が玄関の扉を開け、彼を招き入れる。


「櫂理、まだ寝てます?」


「ううん。今起きたところ。これから丁度ご飯なんだけど圭君も一緒にどう?」


「いつもありがとうございます。それじゃあ、有り難く頂きます」


そして、このやり取りは日常茶飯事なので、圭君は変に遠慮することなく、家の中へと入ってきた。





「お前はいつも来るタイミング滅茶苦茶悪いんだよ。わざとか?」


「平然と遅刻するお前が悪いんだろ」


圭君の姿を見るや否や、物凄く不機嫌そうな面持ちで舌打ちをする櫂理君。


一方、圭君は全く動じることなくダイニングテーブルの椅子に堂々と腰を下ろした。


「そういえば、昨日お前が潰したグループの親玉一ヶ月くらい入院するらしいよ。これでまた暫くうちは安泰じゃないかな」


「へー。それは良かった。あの後、教師連中に次やったら窓弁償しろって言われたから丁度良いわ」


そして、圭君の話をさほど興味無さそうに聞きながら、櫂理君も向かいの席に座る。




「もう、二人とも喧嘩は程々にしてね。万が一大怪我でもしたら大変なんだから」


「万にひとつもないんで安心して下さい」


それから、二人の会話を傍で聞いていた私は、一応念を押してみたけど、圭君の爽やかな笑顔であっさりと交わされてしまった。




櫂理君と同じクラスの爽やかイケメンな木崎きざきけい君。

彼もまた櫂理君と同様に、偏差値不相応でこの学校に入学してきたうちの一人。


圭君は赤髪で左耳にはシルバーチェーンのピアスを付けており、一見怖そうだけど、垂れ目でいつも笑顔だからそこまで怖くない。


そもそも、圭君が怒っているところを見たことがないような気がする。


櫂理君がどんなに暴れても、いつも側で穏やかに見守っていて、まるで保護者的な存在。


けど、そんな彼も喧嘩の時は櫂理君以上に怖いという噂があり、上級生含め彼らに逆らう人は殆どいないんだとか。




「美味しい。莉子さんってやっぱり料理上手いよねー」


「てか、毎回莉子の飯たかるの止めろ。お前なんだかんだ絶対それ目的でこの時間に来てるだろ」


ビーフシチューが温まり、テーブルに料理を並べた途端、勢い良く食べ始める二人。


しかも、とても美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があり、そんな光景を微笑ましく思いながら、私はカウンター越しで二人の様子を眺める。



こうして見ると、そこら辺にいる普通の男子高校生と何ら変わりなのに。


あの学校に足を踏み入れた瞬間、それは一気に覆される。

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