第7話 突然の襲撃

馬車は山道を進んで行き、木々の隙間から見えるトリトーの街は少しずつ小さくなっていく。道中は順調だ。このままいけば日暮れまでには発着場に着けるだろうがそんな簡単にはいかないだろうとゲズルは警戒を怠らない。

 周囲を見回しているとゲズルの耳に小枝の折れた音が聞こえ、森の方からメイを感じ馬車から身を乗り出すと、手を伸ばして飛んできた矢を掴んだ。矢の先は試験用の粘着性の物質がついた穂先だが、矢の先と軸の間に純度の低い小さなメイ石が装着されているのを見るとゲズルは眉を顰めた。

 「ライトさん。馬を止めて馬の耳を塞いで下さい」

「えっ」

「今すぐだ」

 ゲズルからの突然の要求にルトは戸惑うがグレイスからも強く言われ、慌てて馬を止める。重馬の耳を塞いだのを確認したゲズルは矢からメイ石を取り出し、後方に向けて思いっきり投げ、何が起きてもいいように荷物を押さえた。メイ石は遠くに飛んで地面にぶつかると破裂音を響かせて爆発した。クズ石のメイ石に単純な細工をして作った爆弾はギアが発明され始めた頃に生み出された代物だ。規模は小さいが馬車に直撃すれば馬が暴れて大惨事になっていただろう。重馬は漏れて聞こえた音に動揺して脚を上げそうになるもルトが抑える。明らかに試験の範疇を超えており狼狽えるルトの様子から想定外である事は明らかだ。茂みの奥から物音が聞こえてきて息つく暇も無く、ゲズルとグレイスは馬車から飛び出した。

 「いざと言う時は私が囮になるから馬車を守ってほしい」

「大丈夫なのか」

「ライトさん達を守る為にはそうした方がいいだろう。それに試験の真意を考えればそれが一番の答えだ」

「……了解」

 短く受け答えするとゲズルは近くにあった大きめの石を手に取ると山道近くにある大木の枝目掛けて投げる。大木から呻き声が聞こえ、上から弓を持った覆面の男が落ちてきた。先ほど矢を放ったのもこの男だろう。男が落ちるのと同時に、森の中から人影が飛び出して馬車を取り囲んだ。数は4人で先ほどと同じように腕章をつけた覆面の者達だが手に持つ武器は本物の武器だ。

 「気をつけろ。こいつらギア付きの武器を持っている」

 邪眼で分かったのかグレイスは小声でゲズルに伝える。こちらは木製の武器なので明らかに不利だ。腕輪が入ってあるポケットに手を入れたいが今は僅かな動きでも相手に攻撃の隙を与えてしまうだろう。

 皆を守る為に囮となることを視野に入れていると、謎の男達は大声をあげて襲い掛かってきた。

 一先ず馬車から離さなければならないとゲズルはメイで皮膚を固め筋肉を強化すると、前にいる2人の男目掛けて突進する。男達は持っていた剣で斬りつけて来るが横に避け左腕を伸ばして近くにいた男の首元目掛けて勢いよくぶつける。男は呻き声を挙げ吹き飛ばされ、傍にいた男もぶつかって昏倒する。

 背後から気配を感じ振り返ると槍が迫って来て、半回転して避ける。槍は地面から離れた場所で止まったが、地面は大きく抉れている。ギアの力で衝撃波を放っているのだろう。

 槍を持った男は何度も突いて来て、ゲズルはそれを避ける。もう1人を相手しないといけないのですぐに反撃をしたいが、間合いがあるので近付きづらい。

 ならば、そう考えたゲズルは一旦後ろに下がると剣を構え槍の男に向けて走り出した。槍の男は迎え撃って槍を突きだすが、ゲズルは剣を横に構える。槍の衝撃は木で出来た剣を粉砕するがゲズルは剣の破片を目隠しにして間合いを詰めた。ゲズルは左手に力を溜めて手を剣の形に揃えると男の鳩尾を突き昏倒させた。

 相手が昏倒しているのを確認すると、もう1人の男を相手にしているであろうグレイスの方を見た。

 グレイスと対峙しているのは両手斧を構えた人間の男だ。砕かれた地面を見るとどうやら斬撃の威力を上げるギアを装着した斧のようだ。身軽なグレイスは斬撃を避けているが一度でも当たったら胴は真っ二つだろう。

 加勢にいかなければとゲズルは駆け寄ろうとするが、今まで避けていたグレイスが突然立ち止まってしまう。

 好機と考えたのか斧の男は斧を振り上げて突進する。グレイスは動じずに剣を構える。するとグレイスの剣の柄に括りつけられた玉が黄色と緑に光り出した。斧の男が斧を振り下ろすと同時にグレイスは右に避け、剣を鞘ごと突き出した。剣は鞭のように伸び、男の右腕に触れたと思うとバチっという音と小さな火花が奔り、男は痙攣すると前に倒れこんだ。

 見た所感電したようで邪眼の力でメイ石の中のメイに干渉して感電と伸縮の効果を剣に与えたようだ。気がかりはあるがそれよりも馬車とルト達を優先した。

 「ライトさん、ネミーさん大丈夫ですか」

「僕達は大丈夫です。一体あの人達は何者でしょう」

「明らかに山賊役とは違うがただの賊にしては装備が充実している。気にはなるが試験を続けるか」

「えぇ。問題は時間ですが」

 ゲズルが空を見上げると、急襲で手間取ってしまったせいで日は西の山へと沈みかかっている。

 「ルトの腕ならば少し無茶をすれば日暮れまでには間に合うと思うが、行けるか」

「え、えぇ何とかやれるとは思いますが」

 エイクの言葉に歯切れが悪いルトの表情を見てゲズルは首を横に振った。

 「いえ無理をしないで進みましょう。一先ず後で回収する為にこいつらを縛り付けておきましょう」

「荷物は日暮れまでだがいいのか」

「えぇ、フェルンもそれでいいよな」

「あぁ」

「お前達がいいならそれでいいが」

 エイクの視線を感じながらゲズル達は男達を縛り上げて先へと進む。

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