第2話 謎のバリアと対応法

窮鼠猫を噛むという諺がある。

窮地に陥れば弱いものでも生き延びるため、強い敵にも牙を向ける。だから相手が弱くても最後まで油断しないようにとの教訓を込めた諺だ。

強いものにはそれで良いのかもしれない。

しかし弱いものにとっては気になるのだ。

窮鼠よ、噛んだ後はどうなったと。


「くっ、死ねるぞこれは!」


咄嗟に地面を転がる義昭の上を、まるで砲弾のように突き抜けていく猪の魔獣。

進行方向にある木々にぶち当たるが、まるで発泡スチロールで作られているかのように簡単に弾け飛ぶ。

そしてまた飛び出してくるのだ。ランスのような二本の牙を構えて、一直線に。

祖父が見ていた時代劇の騎馬突撃を彷彿とさせるが、はるかに殺意のこもった突撃を文字通り命がけで躱す。

しかし逃げるだけではジリ貧だ。いずれ殺される未来が見える。だからクワや鎌で反撃してみるも、これが不思議なことに切れないし刺さらない。むしろ魔獣の表面に届いている感覚すらない。

何か刃物と魔獣の間に薄い膜でもあるかのような、そんな不可思議な手応えが返ってくるのだ。

まるで不可視の鎧でも纏ってるかのように。


「やっぱダメか!」


フルスイングして叩き込んだ二本目の鍬が折れ、ものともせずに突っ込んできた魔獣を躱す。


「だんだん目が慣れてきたから避けれはするけど、このままだとキッツイなぁ」


ブフゥ……と鼻息荒く、苛立たしげに前足で地面を掻く魔獣。その姿はまんま、暴れ猪か闘牛か。

奴からすれば取るに足らない矮小な生物をなかなか仕留められないどころか、細かく反撃までしてくるのだ。それは腹も立つだろう。

だからといって殺されてやる義理はないので、しっかり抵抗は続けさせてもらうのだが。


「どうする、やっぱありきたりだけど目か?」


よくアニメや映画では防御力の強い相手には目を狙う表現があるが、実際はかなり厳しい。

頭蓋骨の作りとして眼窩と脳の間には分厚い骨が挟まっており、眼球を狙ったからといって脳にダメージは与えられない。

かえって手負いにしたうえで怒らせるのがオチだろう。

さらに剥製など見ればわかりやすいが、生物の目とは小さいものだ。単純に的として狙いにくい。

あまり分のいい掛けとは言えないだろう。

しかし、だからと言ってほかに攻撃が通じそうな部分はない。

すでに折れた二本の鍬はなにも適当に打ち込んだわけではない。

しっかり刃が魔獣に突き立つように打ち込んだつもりだ。

しかし結果、なんの痛痒も与えることなく撃ち負けている。


「固いってのも……なんか違うんだよな……」


再度の突進を躱しながら、打ち込んだ時の感触を思い出す。

手に残るそれは、固いものを打ったというより、何かに阻まれたというほうがしっくりくる感触だった。

例えるなら魔獣の体に極厚のフィルムが巻き付いている感じ。

毛皮や肉に当たった感触があまり無かったのだ。

過去にみたニュースの記事を思い出す。


『自衛隊など出動し、多くの負傷者を出して……』


熊やイノシシなど、おおよそ人間の範囲を超えた猛獣を相手にしたとして、その時に火器の使用を許可された自衛隊員が、そんなにも遅れをとるだろうか。

何かしらの高火力な銃器で仕留めて終わりとなりそうなものだ。


「ブフゥゥゥ……!」


突進した先で木を一本へし折り止まり、今度は外さないとばかりに前足で地面を掻く魔獣。

物は試し、そう思った義昭は突進の機先を制するように拳大の石を投げつけた。

狙いは目……と言いたいところだが、そんな器用な狙いはつけられないので大雑把に鼻から目。

過去に友人と野球はやったことがあったので、それなりの球速は出ていたはずだが、魔獣は意にも介さずに突進してきた。

だがその程度は予想できていたので、ギリギリだが避けるのは何とかなる。

左サイドに転がるようにして避けた一瞬後に、大型バイクほどの体格がある魔獣がノンストップで突っ込んできた。

遅れて衝突音が鳴り、バキバキとまた一本、樹木が犠牲になった音が聞こえてくる。

かすかに掠った肩口の布が持っていかれ、擦れた皮膚に血が伝う。

もし、まともに当たったら死ねるな……と、義昭の額に汗が伝った。


(だけど、おかげで分かった)


倒木から頭を抜く魔獣を視界に入れつつ、さっきの光景を思い出す。

義昭が投げた石、それはたしかに魔獣へと命中した。

しかし、その頭部に当たるギリギリで弾かれたように見えたのだ。

やはり何かが間に挟まっている。


「自衛隊に被害が出たのはコレが原因だったりするのかな……バリアみたいな?」


想像が正しかったら笑えない。

結局、そのバリアを突破しないと本体に攻撃が届かないということなのだから。


「あーー。こっから入れる保険はあったりしねーよな……」


馬鹿なことを言ってみるが、気休めにもならなかった。

何度も回避する義昭にイラついているのか、魔獣も鼻息荒く何度目かの突進用意を始めていた。

そう鼻息荒く、イラつきを隠しもせずに。


「だいたいの攻撃は効かないし、刃物弾くし通らないし、当たったら多分死ねるし。しゃーない。どうせ逃げられるような感じでもないし、腹くくるか」


刃物も投石も本体に届きすらせずに阻まれてしまう。そして農具以上の武器を義昭は持ち合わせていない。拳なんかも試す気になれないほど効く気がしない。


魔獣が一気に走り出す。狙いは義昭の心臓。牙を突き立てえぐるため。

対して義昭は武器を構えることもせず自然体。

弾丸のように放たれた魔獣の突進に合わせ、跳び箱の要領で魔獣の背にまたがると、首の下と後頭部に腕を回し、一気に締め上げたのだった。






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