第7話:敵陣視察と、秘められし聖典

 週末。ついに私は、ケンジさんの自宅アパート(通称:レストラン)へと足を踏み入れた。


 今日の服装は、前回買ってもらったパーカーに、膝下丈のスカート。

 髪もボサボサにならないよう、きっちりと三つ編みに編んできた。

 露出はゼロ。色気もゼロ。

 鏡で見れば「休日のお母さん」か「勉強合宿に来た学生」にしか見えない。


(でも、ケンジさんはこれが好きなんだから……まずはこの姿で油断させて、懐に入り込む!)


「どうぞ、散らかってるけど……」

「お邪魔します……(ここが、男の人の城……!)」


 通された部屋は、驚くほど綺麗に片付いていた。

 ワンルームの室内には、シングルベッドとローテーブル、そして本棚。

 空気清浄機が静かに回っている。


(クンクン……。うん、男性特有の、少しムッとするような濃い匂いがする。おいしそう……)


 私は密かに鼻をひくつかせた。

 空腹は限界だ。今日こそは、この密室で彼を焚き付け、美味しくいただかなくては。

 そのために必要なのは――『情報』だ。


「リリさん、コーヒーでいいかな? お湯沸かしてくるね」


「あ、はい! ありがとうございます!」


 ケンジさんがキッチンへと消える。

 チャンス到来。

 私は音もなく立ち上がった。


(さあ、見せてもらうわよケンジさん。貴方の『性癖』を!)


 彼は私(地味子)を好んでいるようだが、未だに手を出してこない。

 それはなぜか?

 きっと、私の演技の「何かが足りない」からだ。

 彼が普段、どんなシチュエーションで、どんな女性(二次元含む)で興奮しているのか。

 その『答え』が、この部屋のどこかに隠されているはず!


 私は刑事のような目つきで部屋を見渡した。

 まずは本棚。

 ビジネス書、漫画、小説……健全だ。あまりにも健全すぎる。

 だが、男の部屋に「裏」がないわけがない。


(ベッドの下……は、何もない。クローゼットの隙間……ここもクリアボックスだけ)


 焦りが募る。

 お湯が沸くまでの数分間が勝負だ。

 その時、本棚の一番下、図鑑のような大きな本の裏側に、違和感のある隙間を見つけた。


(……怪しい)


 私はそっと前の本をどかした。

 そこには、隠されるようにして数冊の薄い本と、DVDが鎮座していた。

 タイトルが見える。


 ――『放課後の図書室で…地味な委員長が乱れる時』

 ――『眼鏡の奥の淫らな素顔』

 ――『三つ編み乙女の秘密の放課後』


「…………は?」


 私は思わず、その本を手に取って凝視した。

 表紙に描かれている女の子。

 黒髪、三つ編み、眼鏡、そして清楚な制服。

 どう見ても、「今の私」そのものだった。


(えっ、これ……今の私と完全に一致してる……!?)


 衝撃が走る。

 ケンジさんは、「仕方なく地味な子を選んだ」わけじゃなかった。

 彼は、筋金入りの「地味子好き(マニア)」だったのだ!


(じゃあ、なんで!? 理想通りの女が目の前にいて、しかも部屋にまで来てるのに、なんで襲ってこないの!?)


 混乱する頭で、さらにページをめくる(中身を確認する)。

 そこには、地味な女の子がいじらしく恥じらいながら、激しく愛されるシーンが描かれていた。

 

(――ッ! わかった……これだわ!)


 私は閃いた。

 この本の中の女の子たちは、みんな最初は「いやっ、ダメです」と抵抗している。

 でも、男の人に強引に迫られると、トロトロになって受け入れている。

 つまり、ケンジさんが待っているのは――


『もっと恥ずかしがって、嫌がっているフリをする私』を、『無理やり攻略するシチュエーション』!?


 ガチャリ。

 ドアノブが回る音がした。


「リリさん、お待たせー」


「ひゃいっ!!」


 私は慌てて本を元の場所に突っ込み、何食わぬ顔で座布団の上に正座した。

 心臓が早鐘を打っている。

 けれど、今の私には「攻略法」がある。


(見ててねケンジさん。貴方の性癖どおりの、最高に『いじらしい獲物』を演じてあげるから……!)

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